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  4. くまたんち
≫くまたんち
■発売元 ディンプル
■開発元 ヴァニラウェア、アシナガおじさん、ベイシスケイプ(音楽)
■ジャンル スローライフシミュレーション
■CERO A(全年齢対象)
■定価 5040円(税込)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 2つ(※フラッシュメモリバックアップ)
■総説明書ページ数 36ページ
■推定クリア時間 2週間(エンディング目的)、40〜50時間(完全攻略目的)
くまたんは、『おんぼろ動物園』で飼育されているクマの女の子。
そんなくまたんは、『おんぼろ動物園』が改修工事を行う為、飼育員のまぐろうさんのお友達がいる『にぎわい動物園』に二週間、引き取られることになりました。

そこにいるのはウサギ、トラ、うし、さる、…おまけでネコ。
彼らと共に過ごす二週間をくまたんは、どのように過ごすのでしょうか。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆漫画チックな露骨な性格付けが面白い、個性的な登場キャラクター達
◆イラストそのものが動くかのような、神業も同然なクオリティで仕上げられたグラフィック(全部一人で描いたのも凄過ぎる…)
◆眺めるゲームデザインにマッチした、単純明快且つ直感的な操作性
◆昼でも夜でも楽しめる縛りの無さが忙しい人に嬉しい、くまたんの全体設計
◆リアルタイムで2週間だけ世話を見る、期限付きの構成が新鮮なゲームシステム
◆「眺める面白さ」を引き立てる、無駄にバリエーション豊かなくまたんのリアクション
◆4コマ漫画風味のテンポの良い展開と内容の面白さが光る、寸劇デモ
◆ちゃんと世話しないとエンディングが迎えられない、プレイヤー自身の「マメさ」が求められる、独特のゲームバランス
◆ベストショットを狙うのに、つい夢中になってしまう面白さがある写真撮影システム
◆普通の家具から何処かで見たアイテムまで、盛り沢山のアイテム(アイテムコンプリートのやり込み要素もあるので熱い)
◆随所に凝らされたマニアックでスレスレな小ネタの数々(マ●オとル●ージとか…)
◆ほのぼのとした世界観にマッチした、和み系の爽やかな音楽
◆深いドラマは無いが、抑えるところはきちんと抑えたシナリオ構成
◆数は少ないが、世話の結果が露骨に表れる内容が生々しい、全てのエンディング

--- Bad Point ---
◆プレイヤーが介入できる場面の極端な少なさ(基本、眺める事が中心となる)
◆任意のタイミングで行えないのがもどかしい、お稽古とくまたんショー
◆単に見せるだけで、アドリブ芸等の介入操作ができないのも寂しい、お稽古とくまたんショー(出来たら、化けていた気がする)
◆時々、誤ってデコピンになってしまう、タッチペンでの「なでる」操作
◆くまたんが部屋を移動する際、決まって消滅する下画面のメニューウィンドウと各種コマンド全般(しかも、決定した時に消滅が重なるとキャンセルされる…)
◆基本的に作業になりがちなアイテムコンプリートのやり込み
▼Review ≪Last Update : 10/25/2009≫
可愛い姿して、本能は野生そのものだ。

鮭を食わせてみれば分かる。


『ハバネロたんハウス』等を手掛けた同人サークル・アシナガおじさんと『プリンセスクラウン』、『オーディンスフィア』で知られるヴァニラウェアが製作した、新作スローライフシミュレーションゲーム。音楽部分はベイシスケイプが担当している。

眺める面白さへの徹底したこだわりが光る、DS至高の和みゲーだ。

内容は、いわゆるスローライフシミュレーションゲーム。『くまたん』と呼ばれる、擬人化月の輪熊と一緒に、日々の生活を過ごしていくというものだ。ゲームに詳しい人に向けて例えるならば、スーパーファミコンとNINTENDO64でエニックス(現:スクウェア・エニックス)からリリースされた『ワンダープロジェクトJ』シリーズに似たゲーム、というとピンと来るかもしれない。ただ、今作の場合はそちらとは違い、ストーリー性は薄め(ワンダープロジェクトJはストーリー性が強かった)。一応、寸劇のイベント等も用意されているが、基本はゲーム性重視で、『架空のキャラクターとの生活』に絞り込んだゲームデザインとなっている。
具体的にプレイヤーは何をこのゲームでやっていくのか、というと既に説明した通りに『くまたん』と一緒に日々の生活を楽しんでいく。餌をあげ、叱ったり、褒めたり、更には芸の練習をしたり、写真を撮ったりと、それらを繰り返していくのが基本となる。一日の時間は、ニンテンドーDS本体の内蔵時計とリンクし、リアルタイムで進行。ただ、時間の変化による環境変化…例えば、夜になるとくまたんがずっと寝たままだったり、道具などが買えるお店が閉まっていたりなど、そういった要素は無く、あるとしたら単に背景が夜仕様に変わる(昼だったら昼仕様に変わる)程度と、大人しいものに終始している。その為、いわゆる「昼じゃないとくまたんと遊べない」みたいな縛りは無く、時間構わず同じゲームプレイを楽しめるようになっている。仕事とかで、プレイする時間がどうしても夜に限定されてしまう方にとっては、この上なく有り難い要素(更に時間に合わせて自動的にゲームも進行する親切設計)。変化が少ない故に寂しさもあるが、この手のシミュレーションゲームとしては、なかなか挑戦的な要素を取り入れている。
また、今作は最終的な目的が決定付けられているのも大きな特徴。くまたんと一緒に生活を楽しむのがプレイヤーが行っていく事なのだが、実はこの生活をしていく日々は、2週間と決められている。つまり2週間が経過すれば、自動的にエンディングとなってゲームクリア。初めから、ゲーム開始からエンディングに至るまでの時間というのをゲーム側で設定するという、何とも大胆な試みが成されているのである。
但し、くまたんの世話をサボり過ぎたり、内蔵時計をいじっていきなり二週間目に飛んだりするとペナルティ。『タイムリープ』という名のやり直しを喰らう。クリアの時間が決められてるからと言って、誰もがクリアに至る訳ではない。一応、そう言った対策はきちんと取られている。クリアの時間は決まってるけど、やり方次第ではクリアにならないという辺りもまた、ゲームとして良いアクセントとなっているだけでなく、アイディアとしても面白いところだ。プレイヤーのやり方如何に捉われる事無く、結末が迎えられるようになっているのも新鮮。普段、ゲームをプレイしない人、そして他のゲームとの兼ね合いで忙しい人等に対してみれば、これは非常に有り難いシステムだと言える。
ゲームに慣れた方に対しても、この制限を活かした要素…くまたんの『好感度』があるので、この制限下で何処まで伸ばせるか、と言ったチャレンジが楽しめたりと、地味に効いた心配りがされてるのも良い。制限されているからこその遊びもきちんとされており、単にライトユーザーだけを念頭において作った雰囲気が無いのも、地味ながらゲームとしてのこだわりが感じ取れる。架空のキャラクターと生活するにしても、終わりの時が定められている。その限られた制限下で、何処までそのキャラクターと仲良くなれるか。ある意味今作は、「出会い」と「別れ」という、人生の縮図みたいなのを描いたシミュレーションゲームと言っても良いのかもしれない。勿論、肝心のゲームにはそんなテーマを感じ取れる場面はないのだが、架空のキャラクターとの生活を楽しむゲームで、ここまで明確に「別れ」を設定したゲームも珍しい。革新的な事をしているなと、このゲームデザインは大きな評価に値するものだと言えるだろう。

また今作は、基本的にプレイヤーが介入できる場面も限られている。くまたんに対し、プレイヤーができる(いじれる)事は「褒める」か「叱る(デコピンする)」ぐらい(微妙な所で、物への誘導もあるが…)。あと他に「餌を与える」、「写真を撮る」、「遊び道具を庭にセットしたりする」があるが、これらは間接的な行為なので、直接くまたんを触る手応えは無い。
この介入余地の少なさは、賛否が分かれる。確かに、やり過ぎると対象年齢を引き上げてしまいかねないので(汗)、この程度に絞り込むしかなかったのかもしれない。だが、その二つとは別のコミュニケーションを取るアクション以外にも、例えばいきなり遊び道具を投げ入れて反応をうかがってみるとか、入れても良かったのではないか。
毎日、定期的に行われる『ショー』にしても、メニューで披露する芸を選んでその芸を実現して終わりではなく、こちらも介入できるようにして、アドリブ芸をやらせてみるとか、そういう風にするとシチュエーション的にも面白くなったはず。動物園の動物だから触れるにも限度があるにせよ、もう少し直接的に関与できる要素があれば楽しくなっただろう。苦渋の判断だったかもしれないが、できればそれ位はできるようにして欲しかったところだ。
ただ、その介入余地が少ない反面、くまたんが見せる多彩な反応の数々は秀逸。「眺める面白さ」を見事に表現している。今作の真骨頂はそこにある。
実際に見ると思い知らされるが、くまたんが見せる物に対するリアクションは無駄に多く、それでいて楽しい。遊具で遊ぶにしても、きちんとした使い方をする時もあれば、異様な使い方をする事があったり、色々なパターンが用意されているので、単に一つの物に対する反応を見るだけ微笑ましい気分に浸れる。
それにパターンが多いだけに、新しい遊具を買う度に「どんな反応をするだろう?」と言った「ワクワク感」があり、プレイヤーに「物を買わせる動機付け」をさせてる辺りも、可愛いものに対する人の心理を捉えていて上手い。パターンが無駄に多いのも、そんな人の心理を分かっているからこそできた芸当なのだろう。正直、この辺の絶妙な誘い込みは脱帽の一言に尽きる。可愛いものに対する人の心理が良く分かってるなと、唸らされる。
また、このパターンを見たい欲を刺激させる、神業同然なドット絵も圧巻。今作最大の売りでもあるが、冗談抜きにくまたんを始めとするキャラクター全般の動きは神の所業である。表情はコロコロと変わるし、移動の動作にしても、手足どころか髪の毛まできちんとアニメーションする等と、とにかくその描き込みっぷりはもはや、人間の業とは思えない。イラストそのものが動いているも同然なその動きには、誰もが呆気に捉われてしまうだろう。しかも、このドット絵を描いたデザイナーはたったの一人、ディレクターのシガタケ氏だというのだから驚かされる。全く持って、どうしたらこんな無茶が出来るのか、畏敬の念を抱かざるを得ない。。それに表情の変化にしろ、細部まで破綻無く作り込まれているので、パターンを見てみたい心理も大いに刺激させられる。これが仮に平坦な変化しかせず、作り込みもそんなにでもないドット絵だったら、刺激も薄かっただろう。そういう意味では、このグラフィックのクオリティはまさに考え抜かれたからこそのもの。楽しませるのが目的なら、こんなに無茶するのもしょうがないわなと、納得である。だからこそ、もっと介入できれば…、という無念が生じるのだが。
けど、この眺める面白さに対する徹底振りは、感服するばかり。可愛いキャラクターに対する人の心理を巧みに付いたドット絵の描き込みにしても、余程、眺めるだけでも楽しいものを作るというこだわりが無ければ不可能も同然。それを軽々と成し遂げてしまっただけでも、今作は眺めるゲームとしては一級品の出来に値すると言っても過言では無い。ゲームは絞り込んで、眺める部分は広くする。その工夫もまた、何だか可愛いキャラクターとの生活は一瞬のものでしかないと、妙な心理を突いてて面白いところだ。こんなにどかしい思いに満ちたスローライフシミュレーションも珍しい。

操作もボタン、ペンの両方に対応しているが、どちらも違和感の無い仕上がり。複雑な操作もほとんど無く、眺めるに徹したゲームデザインにマッチしているのも、地味なこだわりを感じさせられる。 2週間の制限ながら、遊具を始めとするアイテム収集などのやり込みも充実。クリア後のフリープレイがあり、そこでじっくりと収集の楽しみが味わえるのも、制限に捉われるのが苦手なプレイヤーの配慮としてグッドだ。
シナリオもそんなドラマチックではないが、動物園内の仲間のやり取りなど、微笑ましいシチュエーションが多くて和まされる。会話のデモシーンも短めで、4コマ漫画っぽいテイストに満ちていて、独特の味わいがある。随所に凝らされたマニアックな小ネタも必見。マ●オとル●ージ、ポ●ットモ●スター、名●偵コ●ン、さ●なら絶●先生、よ●ばと!など、そのあまりにスレスレなネタは、マニアなら冷や汗必至(笑)。また、ヴァニラウェアの過去のゲームから拝借したネタもチラホラ。その手のファンへのサービスもバッチリだ。

音楽も世界観にマッチした、和み系の曲が良い味を出している。主題歌が収録されてたりなど、地味にDSらしからぬ試みが凝らされてるのも面白い。他にも個性的過ぎるキャラクター、快適且つ独特なインターフェースなど見所は多い。 眺めるのが主体なので、真っ当なゲームを求めるプレイヤーには好みが分かれるかもしれない。しかし、気軽に楽しめるという利点、少し放っておいてもゲームが進む、昼夜差別がないなど、色々と意欲的な試みが行われているので、少しでも触ってみる価値も十分にあり。
他に神業のドット絵、可愛いものに対する人間心理を突いた多彩なリアクションなど、ひたすらに「眺める面白さ」を追求した、この『くまたんち』。これぞまさに、ニンテンドーDS史上最高の和みゲーだ。可愛いものに目がないユーザー、女性プレイヤーにオススメ。限られた時間の中で、ヘンテコな月の輪熊とスローライフを楽しんでみませんか?
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