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≫ハーメルンのバイオリン弾き
■発売元 エニックス(現:スクウェア・エニックス)
■開発元 ダフト
■ジャンル アクション
■CERO(推定) A(全年齢対象)? ※(ギャグの)虐待描写あり
■定価 10080円(税込)
■公式サイト ≫スクウェア・エニックス:紹介ページ
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 無し(※バックアップ機能・パスワードコンテニュー無し)
■総説明書ページ数 27ページ
■推定クリア時間 4〜7時間
■補足情報 ≫備考録(※原作、関連作品紹介など)
その昔、全ての悪を封じ込めた箱があった。
だが、その箱をパンドラという女が開けてしまった。
それと共に世界には邪悪なる者達が飛び散り、世界は混沌の闇に閉ざされた。
誰もが救世主が現れる事を願い、強く祈った。
そして、箱の中から”希望”が出てくる……

……予定でした。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆ステージを順に攻略していく、正統派且つシンプルで分かり易い基本ゲームシステム
◆人間の少女がメインウェポンという、全世界震撼&ドン引き必至の攻撃システム
◆ステージの状況に応じて切り替える、考える面白さに富んだ『着ぐるみシステム』
◆サルにカエル、更にはカーリングと、バリエーションに富んだ全16種類もの着ぐるみ(それぞれの個性が明確に打ち出されているのも素晴らしい)
◆ゴールを目指すタイプのものから謎解き要素を盛り込んだタイプのものまで、種類に富んだ全30以上ものステージ
◆簡易チュートリアルにアイテムによる回復システムなど、それなりに充実した救済処置
◆原作を読んだ事の無い方でも溶け込める、驚異的な敷居の低さが異彩を放つストーリー
◆アクションゲームらしい、レスポンスの良さが光る、優れた操作性
◆序盤は優しく、後半から複雑にするという、適切な配分が見事なゲームバランス
◆原作のコミカルさ特化した、ポップな色使いとキャラの動作が印象的なグラフィック
◆多少、ゆったりしているがクラッシックの曲を取り入れるなど、原作愛に秀でた音楽
◆アクションゲームの勢いの良さ、原作のドタバタした雰囲気を上手く表現した演出
◆原作ファンならば思わずニヤリとしてしまう、強烈な隠し必殺技

--- Bad Point ---
◆パスワードコンティニュー等の途中再開機能の不在(あるべきだったのに!)
◆途中再開機能が無い故に、不釣合いな感も否めない総計ボリューム
◆レスポンスは悪くないが、少し煩わしさもある着ぐるみの切り替えシステム
◆一部、存在意義不明の着ぐるみの存在(原作らしいけど…)
◆第一楽章、第二楽章のボス戦で、ダメージを与えた音が鳴らない(後の章ではちゃんと鳴る。入れ忘れた…?)
◆斬新とは言え、人によっては罪悪感に見舞われかねない攻撃システム
◆主に謎解きのあるステージで流れる、やたらと単調な曲(正直、聴いててダレる…。)
▼Review ≪Last Update : 7/20/2008≫
「仮にもあたし、ヒロインなんだけどねっ!」

薄幸の美少女、魂の叫び。


1990年から『少年ガンガン』誌上で連載され、ギャグとシリアスに富んだストーリー、個性的なキャラクターで好評を博した、渡辺道明原作のファンタジー漫画『ハーメルンのバイオリン弾き』のアクションゲーム。開発は同じく少年ガンガン連載漫画を原作としたアクションゲーム、『南国少年パプワくん』を手掛けたダフトが担当。

危険ですので、絶対に真似しないでください。
前代未聞のゲームシステムで送る、ドン引き必死の怪作だ。

……何やら、不安を煽る言い回しがありましたが、それは置いといて。
まずゲーム内容だが、基本的にはオーソドックスなステージクリアタイプの2Dアクションゲーム。主人公の外道勇者ハーメルとパートナーの少女フルートを操作して、多種多様なステージやイベントを攻略していくという、よくあるタイプのものとなっている。しかし、あくまでも「よくあるタイプ」と言えるのは、そんな基本的な所だけ。その深奥には、日本のみならず全世界を震撼させる、ドン引き必至の革新的な試みが盛り込まれている。
その革新的な試みと言うのが、主人公ハーメルの攻撃手段。『バイオリン弾き』と言う題名に習うが如く、今作ではバイオリンを演奏して、音符を発射するという実に風変わりなものを取り入れているのだ。しかし、しかしだ。これはあくまでもサブウェポンに過ぎない。しかも、どう見てもさっき言ったように全世界を震撼させる類のものじゃない。では、ハーメルのメインウェポンとは一体…何なのか。
それは何と、パートナーである少女フルート。つまり、人間!
今作では、彼女自身を担いで「ぶん投げる」のが、主となる攻撃手段なのでございます!
おいおい、冗談はやめろよ…と言いたくなるのも必至だが、冗談も何も大真面目。マジで今作は、この彼女を投げる攻撃を使わねば、先に進むことすらままならないのだ。だから、どんなに「ダメ!彼女だけは投げる訳に行かない!」と言って頑固に通せば、確実に途中で詰まってしまう。彼女をステージの途中に見捨ててくる事もダメ!基本、各ステージは”二人揃って”ゴールに入らないとクリアした事にならないから、見捨てれば自分もその代償を受けるハメになってしまう。大真面目に彼女をこき使わずして、今作のクリアは決して成し遂げられぬのだ。敵を倒す事にしたって同じ。一応、バイオリン攻撃でも倒せる事は倒せるが、基本的に攻撃力は低く、大体2〜4発は当てる必要がある為、どうしても時間がかかってしまう。それに、ボスにもまともなダメージが与えられないので話にならない。対し、フルートならばバイオリンなら2〜4発は当てる必要があった敵も一発で昇天。ボスにだって、ちゃんとダメージを与える事ができるのだ。
これでもう、如何に今作がフルート抜きに遊べないゲームかはお分かりになっただろう。そして、全世界震撼と言った意味も理解できたでしょう…。こんなにも今作、現代だと発禁モノかもしれない過激な要素を盛り込んだゲームとなっているのである。ちなみに、人間をぶん投げると聞き、その当人自体が死ぬんじゃないのかと考えた方はいると思うが、これがまた驚いた事に死なない。一応、体力もあるのだが、基本的にゼロになると、その状態でダメージを受けた際にゴールド(街のステージで救済アイテムを購入するのに必要)を失うというペナルティが課せられるだけ。どんなに酷い目に遭わされようとも、彼女はハーメルに黙ってついていくのだ。何と、はかない。
そんな死なぬ概念がある故にやはり、遊んでいると罪悪感に見舞われるのは言うまでも無く。ギャグとは言え、特に女性の方は思わずその不憫な扱いに怒りを覚えてしまうだろう。だけども、このシステム自体は大変面白いものと評価できるのである。と言うのも、実はこのフルートを投げるのは、原作でも扱われていた…厳密には、一発ギャグとしてあったのだ。つまり、今作はその一発ギャグをゲームとして成り立たせてしまったのである。
だから、ステージ構成、ゲームバランス共にそのネタをフルに活かそうとするこだわりが炸裂しているので、驚くほど無理矢理さが無い。確かに罪悪感を感じはするが、ゲームとしては驚くほど違和感の無いものに仕上がっているのだ。
正直言って、この原作のギャグを一つのゲームとして成り立たせた制作スタッフの手腕は「凄い!」としか言い様が無い。まさに、完璧にして原作愛溢れるゲームデザインとはこの事。目が点になるほど、今作は原作の魅力を上手く、ゲームに昇華した作品に仕上がっているのだ。 まさに、良い意味でも悪い意味でもドン引き必至!

更に原作をゲームに昇華させているのは、攻撃手段のみならず。
今作にはコスプレ…もとい、着ぐるみシステムなる、フルートに特定の着ぐるみを着せる事で、彼女自身に特殊な能力を備え付ける事ができる要素があるのだが、これも元ネタは、原作の一発ギャグ。これまでも今作は、ちゃんとゲームへと昇華させてしまっているのだ。
厳密には着ぐるみの性質が凄い。全部で16種類とかなりの量が用意されているのだが、その一つ一つが違った独立した個性を確立している。カエルはジャンプ移動、マンボウは空中浮遊、ダチョウはトゲ地帯の通過と言ったように、ちゃんとそれぞれが明確な違いを出していて、それぞれ異なる手応えを堪能できてしまうのである。
また、着ぐるみは他に原作でも登場したサル、更には初登場のカーリングにロボット等、色々とぶっ飛んだものが用意されてるのも笑える。更に小ネタとして、使用目的の分からないものがある…イベント専用物があるのも、原作の雰囲気が上手く出ていて良い感じだ。
そして、何よりもこのシステムが独特の戦略性を演出しているのも素晴らしい。「ここはこの着ぐるみを使って」とか、「こいつにはこの着ぐるみに切り替えて対抗して…」と言った、世間一般のアクションゲームには無い、考えてプレイする面白さと戦略的な展開が楽しめるのは、他にない新鮮な味わいがある。
ステージ構成に関しても、切り替えの煩わしさをなくす為の綿密なバランス調整が成されていて、しっかりと「切り替えて同然」な当たり前さが出ているのがお見事だ。正直、面倒臭さを生む要因になりかねないものを、あそこまで自然にする手腕には脱帽するばかり。
他にも、着ぐるみを切り替えることによって多彩なシチュエーションが楽しめるボス戦、このシステムを活かした隠し通路など、原作の魅力を最大限に活かした箇所は数知れず。
とにかく、このシステムもまた、原作に対する愛が半端じゃないのである。
よく、原作付きのゲームと言うのは何かと、手が抜かれている事がザラであり、ゲームとして成り立っていないものなのだが、そんな中で今作のこの丁寧な仕事ぶりには本当、圧巻の一言に尽きる。何処まで、原作を愛しているのか、と。
こだわり過ぎも、ここまで来るともはや芸術の域だ。

その他、総計ボリュームも、全部で4楽章(ワールド)30ステージ以上とやり応え満点。ステージも一般的なアクションステージから、ちょっとした謎解きのあるステージまでバリエーションが多彩で、プレイヤーを飽きさせない。
しかも、大変素晴らしいのが各章で繰り広げられるストーリー。何と、原作モノでありながらも、「知らないと分からない」みたいな描写が一切無し!読んだ事の無い方でも、すんなりと溶け込める敷居の低さを実現しているのだ。これは原作を題材としたゲームとしては突出すべきものがある。元の原作が敷居が低いのもあるのかもしれないが、だとしてもこれは驚異的。原作を知らなくても楽しめるだなんて、キャラゲーとしては異端過ぎる。
そして操作性、ゲームバランスも原作付きのゲームとは思えぬ素晴らしさ。操作性はやや、動きが遅いところが気になるが、ボタン配置は適切なので、思うがままにキャラクターを動かせる。着ぐるみの切り替えも、基本的にメニュー画面を出す必要があるが、比較的テンポ良く行えるのが好感触だ。
グラフィックに音楽、演出周りも上々。特に演出周りは、第一楽章と第二楽章のボス戦にて、攻撃を与えた際にダメージを与えた効果音が鳴らない欠点はありながらも、アクションゲームらしい勢いの良さ、そして原作のドタバタした雰囲気を表現しているのが好印象。それを盛り上げる音楽も、ややゆったりし過ぎているところもありはするが、ちゃんとクラッシックの曲を取り入れるなど、原作らしさを出しているのが良い感じだ。

しかし今作、とても残念なところがある。それはサポート周り。何とパスワードコンティニュー等の途中再開機能が無い。30以上ものステージをやっていかねばならないゲームなのに、それの対処が全く成されていないのだ。これは本当、残念にも程がある。ステージによっては、進行が遅い場所とかもあるだけに、尚更だ。折角、アイテムによる救済処置に簡易チュートリアルなど、やるべき所はちゃんとやっているのに酷過ぎる!良い出来なのに、こんなところでゲームとしての評価を落としているのは、本当に勿体無い限りだ。これだけは何が何でも、入れて欲しかった。
その他にも、先に挙げたゲームテンポを損ねかねないコスチュームの存在、一部ステージの単調な音楽など、気になる点はチラホラ。それでも今作、アクションゲーム、原作付きゲームとしての完成度は極めて高い。フルートなる少女をぶん投げて攻撃など、ドン引きするような所もあれど、しっかりと遊べるという点では今作、かなり突出している。
総評としては、アクションゲームとしてもキャラゲーとしても見事な傑作。原作を知らない方も知っている方にも安心してお薦めできる、大変優秀な逸品である。危ないネタもあるが、スーファミを持っているユーザーなら要プレイ。キャラゲーとしての理想像、そして現代では不可能な人知の結晶体をその手と目で体感すべし。
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