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≫影の塔
■発売元 ハドソン
■ジャンル 影謎解きアクション
■CERO A(全年齢対象)
■定価 6090円(税込)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 3つ(※1ブロック使用:SDメモリーカードへのコピー可)
■その他 ヌンチャク専用
■総説明書ページ数 16ページ
■推定クリア時間 13〜16時間(エンディング目的)、40〜60時間(完全攻略目的)
何の為に建てられたのか、謎に包まれた巨大な塔。
その最上階に捕らわれた少年の影が謎の男によって切り離され、地上へと落とされた。

物語はここから始まる。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆最上階を目指して突き進む、目的の分かり易さとシンプルさが光るゲーム展開
◆幻想的で雰囲気満点のグラフィック(何処と無く『ICO』っぽい)
◆幻想的なグラフィックと世界観を引き立てる、環境音主体の音楽
◆物体の影が舞台という、ありそうで無かった発想で構築されたステージ
◆影独自の特徴を活かした、他に類を見ないステージ上の仕掛けの数々(その仕掛けの鍵となるクロアゲハの存在感も光る)
◆ゲーム後半にて導入される、『現実世界』への移動システム
◆少し頭を捻れば解ける絶妙な難易度でまとめられたステージ上の謎解き
◆リモコンとヌンチャクの特徴と下手に使い過ぎない配慮が光る、優れた操作性
◆不気味な音楽と見た目の気色悪さでプレイヤーに恐怖を見せ付ける謎の敵『影の塊』
◆難易度選択機能、自動セーブ機能など細かい所にまで手の行き届いた救済処置

--- Bad Point ---
◆プレイヤーを意図的に遠回しさせる、嫌らしい設計が成された各ステージ
◆ゲームテンポの阻害、そしてステージ攻略の冗長化を引き立ててるスペシャルステージ『影の回廊』(配置されてる所も必ず通過しないとダメな場所ばかりと、嫌らしさ全開)
◆終盤の冗長極まりない展開(キリの良い所で終わらせないという嫌らしさ)
◆適当にも程があるストーリーと最低なエンディング
◆悪い意味で多過ぎて、やる気が殺がれる総計ボリューム(特に終盤は蛇足も蛇足)
◆やる気の殺がれるボリュームの所為で楽しさ皆無のやり込み要素『メモリー集め』
◆異常なまでの攻撃リーチ(当たり判定)の短さ
◆プレイヤー側の設定に反した、広過ぎる敵の攻撃リーチの長さ
◆ゲーム展開を引き立てる存在なのに出番が少なく、出し惜しみ過ぎの『影の塊』
◆雰囲気を引き立てているが、悪い意味で退屈さも引き立てる音楽
◆終始、謎解きに徹するつまらないゲーム展開(ボス戦とかが無くてメリハリに欠ける)
▼Review ≪Last Update : 12/26/2010≫
それでも、僕は登り続ける。

…で、いつになったら終わるんですか。


『桃太郎電鉄』シリーズや『ボンバーマン』シリーズでお馴染みのハドソンが送る、完全新作のアクションアドベンチャー。

「宝の持ち腐れ」のことわざがよく似合う、残念な意欲作である。

ゲーム内容は横スクロールで展開する、アクションアドベンチャー。プレイヤーは影の少年を操り、各階層に張り巡らされた仕掛け、敵との戦闘を突破し、物語の舞台となる『影の塔』の最上階を目指していくというものだ。
アクションアドベンチャーを名乗っているが、基本はステージクリア型のアクションゲームな作り。システムも単純で、各階層(ステージ)の様々な場所に配置された『監視する目』なるアイテムを三つ回収。全てを回収した状態で次の階層の入口を塞ぐ『影の壁』に触れてそれを破壊し、先にあるハシゴを登ればステージクリア。次の階層が始まり、以降はその繰り返しとなると言った感じだ。往年のアクションゲームを髣髴させる、懐かしくて取っ付き易い仕上がりとなっている。
ただ、ストレートなアクションゲームという訳でなく、敵を倒すと経験値が手に入り、一定量に達するとレベルアップするなど、RPG要素も多少盛り込まれている。それにやる事はアイテムの回収なので、全体的に探索要素が濃い目。また階層によっては複雑な謎解きがあったり、一度クリアした階層にまで戻らねばならないイベントも用意されていたりする。更に本編は一本道の地続き構成。全体移動マップは無く、クリアした階層まで降りるには実際に歩いていかねばならないなど、徹底して探索を強調している。基本ルール自体は単純ではあるが、さすがはアクションアドベンチャーと釘打ってるだけに何も考えず、仕掛けを突破してゴールを目指すだけの簡単なゲームではあらず。取っ付き易さは確かだが、一筋縄ではいかない内容となっている。
更に一筋縄でいかないのは、探索色の強い全体構成だけに留まらず。先に少し触れたが、今作の主人公は影の少年。実体を持たない影であり、実在の足場を歩けない。歩けるのは自分と同じ、影で作られた足場だけ。今作最大の特徴でもあるが、本編でプレイヤーの前に立ちはばかるステージの大半が影。全てが柱などの物体の影で作られているのである。ステージ上の仕掛けも、大半が現実世界のフィールドに存在する物体の影。なので、現実世界の方で物体が横に移動すれば、影もそれに則って横に動く。そんな独特の設計が成されているのだ。
そして、この設計を活かした独自のギミックも多数登場。現実のフィールドに点在する仕掛けを動かし、影のフィールドで穴が開いている場所に足場を設けるなど、光と影の関係を考えた斬新なテクニックや解法が求められてくる。基本的に現実世界の物体を動かす役割は、少年のサポート役である『クロアゲハ』が担当。実際に動かせる物体は小さな光を発しているものだけに限られており、これをBボタンを押しながらリモコンでポイントする事で操作可能となる。また、クロアゲハは物体を動かすほか、影に当たる光の角度を変えるというのも可能。これを行うことで、短い足場を横に引き伸ばしたり、物体の隠れた突起部分が影世界に現れ、新しい足場が出来上がるなどの変化がステージ上に起こる。そんな創意工夫が必要とされるネタも沢山仕込まれており、まるで影絵で遊んでいるかのような不思議な手応えをも味わえる。できる事は足場を作り出す程度な為、種類に乏しい面こそあるが、現実の物を動かし、困難を突破する感覚そのものはとても新鮮。そして、求められる発想も斬新な為、一筋縄では行かぬ手強さもある。
技術の進歩と共にゲームにも影が表現されるようになったが、あくまでもそれは表現の一つ。ゲーム性と絡めて使われる事は滅多に無かった。それを今作は全体のネタとして使ってしまっている。ある意味、ありそうで無かった事をやってのけてしまったと、言っても良いだろう。そんな無謀にも等しいゲームデザイン、探索要素の色濃いゲーム性など、あまり類を見ないネタが盛り沢山。シンプルな作りだけど、見た目からゲーム性までインパクトは絶大。斬新な試みだらけの意欲作というのが大変よく似合うゲームに仕上げられている。

そして、その斬新な試みの数々が今作最大の売り。現実世界の物体を動かして新たな影を作り、それを足場とする独自のネタは、先も話したように影絵で遊んでいるかのような不思議な面白さに富んでいる。光の角度を変えて影を動かしたり、引き伸ばしたりなどのギミックもインパクトがあり、それまで表現の一つに過ぎなかった影を遊びとして昇華させているのも素晴らしい。題名で「影」と堂々と名乗るだけの気合いの入った作り込み様だ。
また、ゲームが進むと影の世界だけでなく、現実世界も歩けるようになるのだが、このアイディアも凄く面白い。特に影では横スクロールであるのに対し、現実世界は360度の全方位、いわゆる3Dアクションとして作られている構図は圧巻の一言。それまで、単なる背景だと思ってた現実世界が、実はちゃんと作られたマップだったと気付かされた際に受ける衝撃は、今作だからこそのインパクトに満ち溢れている。2Dアクションと思ったら、実は3Dアクションを2D視点で見たものだったと、騙し絵として見せるように設計した手腕には正直、脱帽だ。意外にも程があり過ぎる。
無論、見た目の奇を狙っただけで終わらせず、これを活かした謎解きや仕掛けも収録。二つの世界を織り交ぜた奇怪な展開の数々には、思わず目が離せなくなってしまうこと請け合い。終盤の塔の扉を開ける階層は、その見た目も含め、どんなゲームなのか分からなくなる面白さに秀でているので、要チェックだ。影をテーマとした今作だからこそできたその表現技法には、少し感動を覚えるかもしれない。
しかし、そんな具合に今作、アイディアや表現は素晴らしく優秀な出来栄えなのに対し、ゲームとしての作り込みは悲しいくらいに甘い。というのも今作、マップデザインがとんでもなく雑。その為に各種ネタが上手く活かされてなく、中盤以降からどんどん面白さが落ちていく。そして終盤に到達する頃には愚痴すら言いたくなるほど、モチベーションが下がってしまうのだ。全ての元凶は探索の冗長化を促す構成と無駄なボリュームだ。
前者は主に『監視する目』の配置位置が悪い。意図的にプレイヤーが絶対に見落とす場所に配置されているのだ。それ故に途中で確保したら実は二つ目で、一つ目を取りこぼしていた、という事故が起き易い。そして一つ目を確保する為、通った道をまた戻らねばならなくなる。苦痛極まりない。このようなマップは中盤を越すにつれて増え、それと共にゲームの面白さはガクンと下がっていく。もはや嫌がらせ。プレイヤー視点に全く立ててないその設定は全く持って理解し難い。面倒臭い探索をプレイヤーに負わせて何が楽しいのか?また、本編ではボーナスステージで『影の回廊』と呼ばれるものがあるのだが、これも探索の足かせになってしまっており、『監視する目』が置かれた正規ルートに設置しているのが嫌らしい。しかも、ルート上にある『影の回廊』は回避不能で、絶対に通らねばならぬ仕様。ふざけている。
そして、後者になるがこんな最低な構成のステージがやたら多い。悪い意味でボリュームが充実し過ぎてる。特に終盤以降の展開は最低の一言。最上階に到達したら新しいステージがまた登場、それを終わらせたら更に新しいステージが登場、そこもクリアしたらまた新たなステージが登場と、只でさえ苦痛なステージが多いのに全然終わらせてくれない。最上階に到達するのが目的のゲームであるのに、だ。そして、プレイヤーの精神力を根こそぎ奪う。恐らく、制作側としては意表を付く目的でそんな展開を入れたのかもしれないが、マップデザインの悪さもあり、完全に裏目に出てしまってる。まだ最上階に到達するだけでゲームを終了させれば、少し作りの甘いゲームで終わっていただろうに、そこから無駄に引っ張り、作りの甘過ぎるゲームとして終わらせてしまったのは最悪の判断だったと言わざるを得ない。これもプレイヤー視点に全く立ててなかった事が災いした格好だろう。本来、ボリュームが多ければ満足度が高くなるもの。それが苦痛に感じるのは、作り込みが甘い事を現す証拠。本当、最低な事をしてくれたものだと、突っ込みたいばかりだ。
その他にも、攻め立てる欠点は沢山ある。影の少年の剣の攻撃のリーチが極端に短く、敵のリーチが長くて調整が理不尽であること、ステージごとのロケーションに乏しいことなど。ただ、後者に関してはストーリー設定が設定だけに仕方が無いものがあったと言える。前者は擁護の余地皆無であるが。
本当、アイディアは優秀で、見た目のインパクトも凄い。謎解きのネタも独自色に富んでて、他に無い味わいがある。そんな素晴らしい素材の数々をどうやったらここまで台無しにできるのか?アクションゲーム史に残る逸品になり得る可能性を秘めてたのに、それを潰してしまった今作の制作陣の行いは、言葉が悪いが重罪に値すると言っても過言ではないだろう。全く持って、勿体無いにも程があり過ぎるとしかコメントのしようがない。

勿体無いのはストーリーもまた然り。影になった少年が実態と自身の記憶を取り戻していく、設定だけでも凄く魅力的なものなのに、中身はスカスカ。無理矢理取って付けた落書き同然の出来で、何の感動もありゃしない。更にエンディングも「はあ?」と言いたくなるオチ。設定はもの凄く魅力的なのに何故、ここまで手を抜くか。もう意味不明である。
ゲームバランスも悪い。特に攻撃のリーチの短さの所為で、敵との戦闘の難易度が破綻してる。謎解きの難易度も適切とは言え、パターンに乏しく、後半には作業化してしまうなど作り込みの甘さが尾を引く。操作性がリーチの短さを除き、悪くないレベルでまとまってるのがせめてもの救いではあるものの、この作りはとても褒められたものではない。
グラフィックに関しては悪くない。何処と無くプレイステーション2の名作『ICO』を髣髴させる、幻想的なタッチは非常に魅力的。制作スタッフがICOをリスペクトしているというのが、嫌というほど伝わって来る出来栄えだ。
音楽も『ICO』を意識したのか、環境音主体で曲は無いに等しい。それ故に雰囲気は抜群であるのだが、只でさえ苦痛なゲーム展開を引き立ててしまっている感も否めない。はっきり言って、大失敗というに等しい結果になっている。

やり込み要素もメモリー集めというのが用意されているが、マップデザインの悪さもあって全然楽しくない。致命的である。
演出はしっかりしている。特にある階層で登場する最強の敵『影の塊』の迫力は抜群で、地味なゲーム展開に刺激を与えてくれる。ただ、この『影の塊』が本編に登場する機会が少ないのはあまりに勿体無い。もう少し登場させれば、苦痛なゲーム展開も少し変わったのではないだろうか。折角、良い感じのインパクトがあるのに残念でならない。
まさに今作を一まとめで言うならば『宝の持ち腐れ』と言ったところ。面白そうなネタが揃っているのに、作り込みの甘さで台無しにされてしまっている。どの要素も磨き込めば、凄く面白いものに進化し得たのに、結果的にそうならぬ状態でまとめ上げてしまったのはガッカリだ。
駄作ではないが、傑作でもない。アイディアの優れた凡作と言ったところだ。ネタは新鮮なので、それを楽しむ目的でなら買ってみても良いかもしれない。アクションゲームとしては本当、苦痛な出来なので、そういうのが好きという方にはお薦めしない。また、『ICO』が好きな方も止めておいた方が良い。それほどの深みも何も無いゲームだから。
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