Written in Japanese. Japanese fonts required to view this site / Game Review & Data Base Site
  1. ホーム>
  2. Review Box>
  3. PlayStation Portable>
  4. JEANNE D'ARC(ジャンヌ・ダルク)
≫JEANNE D'ARC(ジャンヌ・ダルク)
■発売元 ソニー・コンピュータエンタテインメント
■開発元 レベルファイブ
■ジャンル シミュレーションRPG
■CERO A(全年齢対象)
■定価 5040円(税込)<Best版:2800円(税込)>
ダウンロード版:2200円(税込)
■公式サイト ≫SCE公式 / ≫レベルファイブ公式
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 最大50個(※1個作成につき必要な容量:576KB以上)
■その他 メモリースティックDuo&メモリースティックPRO Duo対応、ワイヤレスLAN(インフラストラクチャーモード)対応、UMDPassport対応タイトル
■総説明書ページ数 39ページ
■推定クリア時間 25〜30時間(エンディング目的)、120〜180時間(完全攻略目的)
遠い昔、強大な闇の力を持つ魔王率いる死神と魔物達が人間界に侵攻。
人間達は全ての戦力を注ぎ、この長きに渡る戦いにその身を投じた。
やがて戦いに選ばれし5人の勇者が邪悪な力を封じる五つの腕輪を作り、その力を用いて魔王と死神は聖なる宝珠に封印され、戦いは終わりを告げた。
後にこの戦いは『死神戦争』として、歴史に名を残すに至った。

時は流れ、15世紀初頭。フランスとイギリスは領地を巡る争いの最中にあった。
そしてその戦火は、フランス国内の小さな村『ドンレミ村』にまで及ぼうとしていた…。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆過去に発売されたシミュレーションRPGの良い所取りで構成された、安心感抜群の基本システム
◆攻撃を連続して繋げ、大ダメージを狙う、パズル的な面白さが印象的な『バーニングサイト』
◆仲間と連携して戦う、シミュレーションRPG特有のゲーム性にマッチした防御システム『コネクションガード』
◆一発逆転の快感とターン数節約など駆け引きの面白さに富んだ『変身システム』
◆ありがちなシステムではあるが、プレイヤー好みにユニットの能力を調整できる魅力と独特の中毒性に富んだカスタマイズシステム『スキルストーン』
◆迂闊な動きを許さない緊張感と戦略性の高さが秀逸な制限付きのターン制システム
◆レベルによる取得経験値制限など一方的なゲーム展開を封じる策を導入し、駒遊びとしての面白さを徹底追及した秀逸なゲームバランス
◆勝利条件の設定から敵配置まで、入念な設計と調整が図られた珠玉のマップデザイン
◆ユニットロスト無し、フリーマップなど、数は少ないが良心的な初心者用の救済処置
◆膨大としか言い様の無い総計ボリューム(特にやり込み要素が異様な量)
◆作風に癖があるが、ハードの限界を極めようとする姿勢が顕著に現れた美麗なグラフィック
◆派手なエフェクトから随所に挟まれるアニメムービーなど、凝りに凝った演出全般

--- Bad Point ---
◆世界観に合わぬ要素が何の説明もなく唐突に登場するなど、全体的に適当さが目立つゲームデザイン(ゲームだから仕方が無い、で済ませようと考えたのが丸分かりな雑っぷり)
◆突っ込み所満載、人物描写ブレまくりの酷いシナリオ(仮にも歴史上の人物を題材にした物語で、こんな適当な物語にするとかさすがに失礼千万)
◆悪く言えば、既視感バリバリで新鮮味に欠ける基本システム
◆激しい処理落ち(グラフィックの美しさがアダになっている)
◆処理落ちの弊害による劣悪な操作レスポンス(快適さ皆無で気持ちよくない)
◆地味に長い上、頻度も多い為、ストレスが溜まるロード時間
◆敵の移動速度高速化と言ったオプションが一切無い上、動きも鈍くてストレスが溜まる、ダラダラとしたゲームテンポ
◆出撃人数制限の厳しさ(敵が多いのに5人までしか出撃できないなど、縛りが酷い)
◆中盤から目立ち始めるアニメムービーでの作画崩壊(特に男性キャラが悲惨な事になる)
◆ひたすらに地味で全く印象に残らない音楽
◆変身能力を持ったユニットの異常な優遇(この為、使い捨てになるキャラがやたら多い)
◆全体的に詰め込み過ぎな感が否めないやり込み要素(極めるにも厳しいものがある)
◆謎のインターネットブラウザ起動システム(これは必要なかった気が…)
▼Review ≪Last Update : 11/20/2011≫
何故生きているかの理由は聞くな。

いや、聞かせろ。というか、言え。説明しろ。


フランスの国民的英雄、ジャンヌ・ダルクを主人公とし、史実ベースのオリジナルストーリーを描いたシミュレーションRPG。開発は『ダーククラウド』、『ドラゴンクエストVIII』などで知られるレベルファイブが担当。

名作シミュレーションRPGの良い所取りで構築された、寄せ集めの佳作だ。

ゲーム内容はターン制のシミュレーションRPG。主人公のジャンヌ・ダルクを始めとする仲間(ユニット)達を動かし、マップ上の敵を倒しつつ、クリア条件の達成を目指すというものである。
システム周りは、シミュレーションRPGとしてはかなりオーソドックスな作り。「プレイヤー⇒敵」の順番で展開していくターン制、マップ上で行われる戦闘、ユニットの向きによって変化する命中率とダメージ量、高低差を取り入れたマップなど、過去、様々なハードで発売されたシミュレーションRPGの良い所取りとなっている。悪く言えば、プレイステーションで1997年に発売された『ファイナルファンタジータクティクス』のキャラクターを差し替えた内容だ。実際、当該作品をプレイした方ならば、先述のシステム解説を読むだけで、今作がそれを踏襲して作られているのは容易にお分かりになるだろう。その為、ゲーム自体のオリジナリティなどほぼ無し。既視感強めのシミュレーションRPGとなっている。
とは言え、好意的に見れば、正統派の魅力にこだわり抜いたシミュレーションRPGとも言える。使い古された要素ばかりとは言え、大半は時代の積み重ねによって成熟したものばかり。その為、いずれも安定した面白さを演出している。また、フリーマップのような救済処置も盛り込まれているので、取っ付き易さもなかなかのもの。今作がシミュレーションRPGの初挑戦作という方にとっては、まさに打って付けの内容であると断言できるだろう。
それに基本が寄せ集めとは言え、全てが何処かで見たようなもので固められた内容という訳ではない。きちんと今作独自の要素も盛り込まれている。代表的なのが『バーニングサイト』、『コネクションガード』の二つだ。前者は敵ユニットに攻撃を行った際、その背後に出現する炎の輪の事。この輪の上に味方ユニットを配置させ、敵に攻撃を行うとその威力が急上昇し、大ダメージを与える事ができるのだ。いわゆる、コンボというと分かり易いだろうか。攻撃を繋げれば繋げるほど、戦闘を有利な方向に持ち運べるボーナス的な要素となっている。このバーニングサイトは、武器の使い方や敵の大きさなどによって、5回以上繋げる事もできる。上手く流れを構築できれば、強力なボスユニットも瞬時に倒せる、なんてのも場合によってはできてしまったりする。そういう流れを如何にして作るか、という所はシミュレーションRPGと言うよりは、さながらパズルゲームそのもの。そんな風変わりな考える面白さが演出されているのは、結構な見所だ。地味でシンプルとは言え、突き詰めると意外と奥深し。何気に侮れない要素として仕上げられている。
後者『コネクションガード』は、簡単に言うと連携防御。ユニットの周囲に味方ユニットが沢山居れば居るほど、敵の攻撃を受けた際のダメージ量が減るというものである。先のバーニングサイトと比べると、地味なシステムではあるが、他の味方が居る事により、攻撃を受けるユニットが踏ん張るというのは何処と無く人間臭くて面白い。また、そのようなボーナスがある為、仲間と連携するのが基本というシミュレーションRPG独自のゲーム性を引き立てているのも特筆に値する部分と言える。単独行動が如何にこの手のジャンルではイレギュラーな行為なのかと、このような形で訴えかけているのはユニークだ。受ける補正がそれほど目立ったものでない為、バーニングサイトほどのインパクトは無いのだが、シミュレーションRPGのゲーム性に説得力を与えるシステムとしては極めて優秀。こちらも地味ながらも侮れない仕上がりである。
この他にも、システムとしてはありがちだが、ユニットの性能を自由にカスタマイズできる『スキルストーン』、そして主人公のジャンヌなど、一部特定のユニットに限定された『変身』の能力など、独特の要素は盛り込まれている。
それでも、全体的にシミュレーションRPGでは定番の要素で固められた作りとなっている為、いずれも強烈な独自性を演出するほどの存在感は無い。しかし、どれもシミュレーションRPGとしての形を大事にする要素として完成されている事に関しては、揺ぎ無い事実である。
正直な所、過去の寄せ集めで作られている為、売れ筋を狙いで作っている感がバリバリなのは否定できない。熟練のプレイヤー、ゲームとしての新しさや独自性を求めるプレイヤーにとっては物足りなさを覚えるシミュレーションRPGと言える。ただ、定番要素で固められている為に安心感は相当なもの。無難に遊べるシミュレーションRPGとしては、総じてこの上ない出来と言えるだろう。そんなずば抜けた安心感が醸し出された仕上がりとなっている。

そして、今作最大の売りはそのずば抜けた安心感である。過去、様々な作品で使われ、成熟した末に完成に至ったシステムを拝借して作られている為、ゲーム性の面で大きく外している部分はほとんど無い。信頼性の高い要素を寄せ集めた内容なのもあり、シミュレーションRPG初心者は言うまでも無く、上級者も気難しく考えず楽しめる内容として仕上げられている。もの凄くシンプル!…とは正直、言い難いが、今作独自のものも含め、総じて複雑なシステムは一切実装されてないので、あまり頭をフル回転せず楽しめる作りになっているのはかなりの強みと言えるだろう。
特に今作の独自要素である『バーニングサイト』は、新しさも含めつつ、初心者にも分かり易い単純なシステムとして完成されているのが見事。直感的に理解でき、且つ戦略を練る楽しさを味わえる絶妙な塩梅で完成されている。何かと入り組んだ作りになってしまいがちなシミュレーションRPGのシステムで、この単純明快さは特筆に値する出来だ。システムを頭で理解するという事が当たり前となってるシミュレーションRPGにおいて、プレイヤーの頭への負担を軽くさせようとするこだわりを感じ取る事ができる。
沢山繋げれば繋げるほど、戦局が有利になるというリスクとリターンの加減も絶妙であり、更にその繋げる流れを考えるだけで夢中になってしまう中毒性を醸し出しているのも実に印象深い。何よりも、仕組みがシンプルなので、初心者と上級者の分け隔てなく、コンボを繋げる快感が味わえるよう作られているのはお見事と言わざるを得ない。理解し易さと熱中してしまう楽しさを兼ね備えたこのシステムは、複雑さを求めがちなシミュレーションRPGのシステムに対するアンチテーゼと言っても過言ではないだろう。
また、もう一つの『コネクションガード』も秀逸の一言。個性豊かな能力を持ったユニットを状況に応じて使い、戦局を突破していくシミュレーションRPG特有のゲーム性を引き立てる要素としてはこの上ない。強いユニットが居れば他のユニットは使わなくて大丈夫という単独行動が如何に愚かで、元来のゲーム性を否定しているのかという強烈なメッセージを伝えているのも実に印象的だ。固まって行動する事が安全という約束事を設け、それを通して全体行動の魅力を訴えかけるこの手法には、難易度を上げ下げするだけの安易な手法とは異なるセンスを感じさせる。その難易度にも一工夫が加えられていて、メンバー全体で一人だけレベルが突出しないよう、経験値に補正をかけるなど、徹底して一方的な展開を作り出さないようにしているのも見事だ。この為、全体のバランスは終始安定しており、適切な歯応えを味わえる。よく本編後半になるほど、一方的な展開に陥りがちなシミュレーションRPGで、この統一感は凄い。分かり易さを大事にする一方で、シミュレーションRPGならではのゲーム性を徹底して突き詰めるこの作り込み様は徹底したこだわりの賜物と言えるだろう。分かり安いからと言って、ゲーム性の面では一切妥協しないこの見事な姿勢。改めて、そのバランス感覚の良さには驚かされる次第である。
しかし、バランスやシステムが上手く出来上がってる一方、世界観との調和を考慮したゲームデザインが雑過ぎるのは残念極まりない。バーニングサイトとコネクションガードはまだ良いとして、カスタマイズ要素である『スキルストーン』が何の説明も無くストーリーに登場したり、高低差に関係なく弓攻撃が届くようになっているなど、随所においてゲームがそうだから仕方が無いという適当っぷりが目立つ。別にそこまで細かくこだわらなくてもと思うが、何しろ今作は歴史上、実在した人物を主人公とした内容。幾らゲームとは言え、本当に歴史に居たかのように見せかけ、プレイヤーが没入できるようにして然るべきだろう。そのイメージを大事にする為、こういう所にはもっと神経を配って頂きたかった。
結果として、このゲームを売る事に対する執着心が晒し出ているのが悲しい。売る事にこだわるのが悪いとは言わないが、もう少し作品として訴えかける為の努力はできなかったのか。シミュレーションRPGの面白さを訴えかける努力は申し分無しだが、それだけやれば後は適当で大丈夫とか、そういう単純な話ではないだろう。折角、ゲーム面の出来は良いのに、そのような汚さが現れてしまっているのは本当に残念な限りである。

ゲームデザインのみならず、シナリオも雑の一言だ。人物描写がブレまくりな上、ご都合主義全開の強引な展開が無駄に多く、突っ込みどころだらけ。何故、この内容でゴーサインを出したのか、意味不明な出来だ。勢い任せでも、お約束を守れば自然と面白くなるという浅はかな考えが滲み出ていて非常に腹立たしい。歴史上の人物を題材にした物語で、こんな雑な話を描くとか失礼千万だろう。人物描写のブレ(特にジャンヌの親友であるリアンが酷い)が多い辺りにも、ライターの能力の無さが現れている。これならその道のプロに任せた方が、遥かに良くなったのではないだろうか。正直、設定自体は悪くないのに、内容で大失敗してしまっているのは勿体無いとしか言い様が無い。
全体のボリュームも、メインシナリオは30マップ以上と適切だが、隠しマップやストーン集めなどの寄り道要素が異様に多く、過剰に入れ込もうとする容赦の無さが目立つのが気になる。長く遊べる点では良い特典だが、そこまでやる必要があったのかというと疑問が残る。
グラフィックも綺麗なのだが、それがアダとなり、処理落ちやロード時間の遅延、操作レスポンスの鈍化を招いていて褒め様が無い。ハードの限界を極めようとする姿勢は買うが、快適さを犠牲にしてまで実現する必要はあったのか。正直、そんな変なこだわりは捨てて頂きたかった。一方の音楽の方は地味の一言で、これと言って特筆すべき点は無い。

演出の方はエフェクトなど、かなり凝った出来。また、ストーリーの間でアニメムービーが挿入されたりと、豪華仕様となっている。しかし、そのアニメも全体的に作画レベルが低く、ストーリー後半で露骨な作画崩壊が目立つようになるのは残念。スケジュール的に逼迫していたのかは不明だが、序盤が悪くないだけに、もう少しこだわって欲しかったものだ。
そんな具合にゲームデザインとシナリオ、そしてボリュームなどの部分で非常に残念な点が目立つが、シミュレーションRPGとしての出来は決して悪くない。一方的な展開を封じ、駒遊びの魅力を突き詰めたゲームバランス、寄せ集めだが安心感は格別のシステムと、基本的なツボは見事に抑えた仕上がりとなっている。
シナリオの出来が酷い為、実在人物のIFストーリーが堪能できる魅力は皆無。だが、シミュレーションRPGとしては安定した面白さを持っている今作。複雑なシミュレーションRPGに辟易した方、シミュレーションRPG初心者ならプレイしてみて頂きたい佳作だ。作りはシンプルながら、基本と奥深さはバッチリ。残念な部分も多いが、ちゃんと遊べる一本だ。
≫トップに戻る≪