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≫ユグドラ・ユニオン
■発売元 スティング(※Best版:アトラス)
■ジャンル タクティカル・ファンタジーRPG
■CERO A(全年齢対象)
■定価 4980円(税込)<※Best版:2940円(税込)>
ダウンロード版:2310円(税込)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 メモリースティックの残り容量によって変化(※使用容量:384KB以上)
■その他 メモリースティックDuo&メモリースティックPRO Duo対応
■総説明書ページ数 43ページ
■推定クリア時間 20〜25時間(エンディング目的)、50〜80時間(完全攻略目的)
神々の血を受け継いだ王家の一族によって統治されていた『ファンタジニア王国』は、何代にも渡る賢王の治世により、豊かで安定した時代を築き上げてきた。
しかし、第31代国王オルディーンの時代に王国は、先帝を廃し近年、急激に勢力を伸ばして来た『新生ブロンキア帝国』の侵攻を受ける。圧倒的な帝国軍の攻勢に王国軍は壊滅。国土は侵略され、遂には王も命を落とした。

そんな中、陥落する王都パルティナから落ち延びた一人の少女が居た。その手には代々、ファンタジニア王にのみ受け継がれてきた聖剣『グラン・センチュリオ』が握られていた。
少女の名はユグドラ=ユリル=アルトワルツ。ファンタジニア王国の王女だった。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆タクティクスカードによる行動制限の中、ユニットを動かして戦闘を展開していく、高い独創性に秀でたゲームシステム
◆シミュレーションRPGの常識を覆す、多対多の構図を表現した『ユニオンシステム』
◆『指揮メーター』による体力管理など、独自のルールが光る戦闘システム
◆独創性の高いシステムの魅力を徹底的に表現する工夫が凝らされた戦闘マップ
◆ゲーム進行に沿って段階的に要素が解放される仕様でまとめられたチュートリアル
◆アイテムを盗む、敵に呪いをかけるなど、個性豊かな特徴を持った『タクティクスカード』
◆見栄えの良い文字フォントとアイコンで彩られた、使い勝手の良いインターフェース
◆スピーディなゲーム展開を演出する、秀逸な早送り機能(イベント、戦闘と幅広く対応)
◆マップ総数45以上、更にアイテム収集のやり込みまで完備と充実した総計ボリューム
◆適切なボタン配分と良好なキーレスポンスが光る、優れた操作性
◆ゲームオーバー後のリトライによる難易度低下など、良心的な救済処置の数々
◆細かい動作と綺麗な色使いが光る、高品質のドット絵で描かれたグラフィック
◆様々な場面を大いに盛り上げる、名曲揃いの音楽(特に戦闘曲全般が良い出来)
◆全編フルボイス、戦闘時のド派手なエフェクトなど、気合い入りまくりの演出群

--- Bad Point ---
◆独創性は高いが、敷居も高くて癖も強いゲームシステム(好みが分かれる)
◆使える者と使えない者の差があまりに激しいユニットの能力バランス
◆所持スキルの能力差が極端な『タクティクスカード』(一部、強力過ぎる物も…)
◆発動すると敗北確定となる上、ランダム発生と理不尽過ぎる仕様のクリティカル攻撃
◆シリアスなストーリーとのギャップが際立つキャラクターデザイン
◆2〜3部に分けられた連戦マップの多さ(クリアまでの時間が短いこと、中断セーブ可能であるのがせめてもの救い)
▼Review ≪Last Update : 12/5/2010≫
「寄らば、斬ります!」

寄らなくても(どの道)斬ります!


『Riviera 〜約束の地リヴィエラ〜』の続編的位置付けでゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売されたシミュレーションRPG、『ユグドラ・ユニオン』のPSP向けリメイク版。

この見た目にして、想定外の歯応え!
独創的なゲームシステムで送る、怪作シミュレーションRPGだ。

※注:筆者はGBA版未プレイの為、それを前提としたレビューとなります。

基本的なゲーム内容はターン制で展開するシミュレーションRPG。マップ上の駒ことユニットをカーソルで動かして敵ユニットを撃破し、勝利条件達成を目指すという至ってオーソドックスなものである。だが、オーソドックスと言えるのはこの基本的な仕組み程度。詳細なゲームシステムに関しては、他に前例が無い「カオス」なものとなっている。
まず第一にユニットの移動範囲。結論から先に言ってしまうと、今作では敵味方共に決まった手数の内でしか、ユニットを動かせない制限が設けられている。移動できる手数は、基本的にターン始めに選択する『タクティクスカード』と呼ばれるカードによって決定。例として移動制限が『11』のカードを選択すれば、そのターンは11マス分しかユニット動かせないという事になる。好き勝手に動かす事は一切できない仕組みとなっているのである。
また、この制限はユニット個別に与えられるものではない。マップ上にいる全ユニットに共通して与えられるものとなっている。だからAというユニットが3マス移動したら、Bは残り8マスしか移動できなくなる。更に今作には、ターン制シミュレーションRPGではよくある『待機』のコマンドが無い。つまり、移動制限11の中でAが5マス移動し、Bのユニットが3マス移動したら、残りの3マス分でAを動かす事もできるという訳だ。より極端に行けば、11の制限を一体のユニットに全部捧げるのも可能。制限の範囲内であれば、全てのユニットが自由にマップを動き回れるのである。一応、移動制限はあるけれども、その制限を全ユニットにどう注ぐかは基本的にプレイヤーの自由。一見、縛り要素として見てとれなくもないが、その割には窮屈な感じはしない。案外、この手の縛りはマイナス要素として存在感を発揮しがちだが、そう言った所はほとんど無い、実に不思議なバランスで成り立ったシステムとして作られている。
第二の特徴である戦闘システムとそのルールも非常に独特。1ターンの内に1回しか行えないという、移動の仕組みとは対照的なものになっている。例によって、これも敵味方共通。二回目以降の戦闘を仕掛ける事はできないのである。更に戦闘を仕掛けたユニットはその場で強制待機となり、ターン中は移動不能にもなるというペナルティも(今作に待機コマンドが無いのはこの為)。一回しか仕掛けられない上、ユニットが移動不能になるだけに、いつ攻撃を行うかのタイミングは極めて重要。戦局を広く見据えた判断力が試される、緊張感に富んだシステムになっている。一方で戦闘内容はシンプル。参加するユニットが10人編成(ユニットによっては4人編成)の軍団でぶつかり合い、最終的に全滅した方が負けというものになっている。任天堂の『ファミコンウォーズ』シリーズと似たシステムと言うと、シミュレーション経験者にはピンと来るかもしれない。ただ、全滅させたからと言ってユニット消滅にはならず、戦闘で負けた際は『指揮メーター』が減る仕組みとなっている。この『指揮メーター』とは要はユニットの体力そのもの。これがゼロになってしまうとそのユニットはマップ上から消滅となる(味方の場合は撤退)。更に戦闘敗北時に減る指揮の量は『タクティクスカード』の中央に記された攻撃力数値によって変移。大きい数値であればあるほど、敗北した際のダメージは大きくなり、最悪の場合は一撃必殺もあり得るほど。負けても直にやられない安心感はあれど、油断は一切できないという非常に極端なバランスとなっている。仕組みはシンプルで飲み込み易いのに結構、奥深し。例によって一筋縄では行かぬ仕上がりになっている。
また、戦闘周りでは第三、第四の特徴として『スキル』と『ユニオン』なる独創的なシステムも積まれている。前者は要は特殊攻撃で、至ってシンプルなものだが、後者は結構な曲者。先程、戦闘はターン中に一回しか発動できないと話したが、この戦闘に参加するのは敵味方も含め、実は攻撃を仕掛けた(受ける)ユニット一体だけでない。『フォーメーション』と呼ばれる、戦闘を仕掛けた(&攻撃を受ける)ユニットが発生させる、特殊なマス目の範囲内にいるユニット全てが参加する仕組みなのである。つまり、戦闘の仕掛け方によっては2対1の優勢での勝負になったり逆もまた然り。流れも大幅に変わってくる。また『フォーメーション』の形は、ユニットキャラの性別によって異なっていて、、男性はクロス(×)、女性は十字(+)という設定が成されている。中央には攻撃を仕掛けた本人が位置し、別のユニットが範囲内にいると、そのユニットは戦闘に参加となる仕組みである。最大で5人まで戦闘に参加でき、上手く活用すれば1体のユニットに5回連続で攻撃を与える事も可能だ。更にゲームが進むと『リンク』なるシステムが解放され、連鎖的にフォーメーションを繋げられるように。さながらパズルゲームも同然な、ユニークな戦術の妙を楽しむ事ができる。
他にも、昼夜の概念など様々な要素があるが割愛。このように基本はターン制のシミュレーションRPGなのに、全体を構成するシステムは独創的なものばかりで、まさにカオス。移動制限があるわ、連携攻撃はあるわと、沢山の新要素が詰め込まれている。そして、それらの要素がいずれも違和感なく融合し、独創的なゲーム性を演出しているという、奇跡のような仕上がり。故に求められる戦術も何もかもが前例無いもの。本当に斬新としか他に言い様が無い、独創的過ぎるシミュレーションRPGになっているのである。

言うまでも無く、今作最大の魅力はその独創的過ぎるゲームシステム全てだ。移動制限の中でユニットを動かし、他との連携を考慮して敵との戦闘を展開し、勝利条件の達成を目指していく。基本こそ、よくあるシミュレーションRPGではあるものの、求められるテクニックが特殊過ぎるので、本当に今まで体験した事の無い駒遊びの手応えが堪能できる。
特に『ユニオン』を組みながら展開する戦闘は実にユニーク。そして、シミュレーションRPGの戦闘システムの常識を覆す、大変革新的なものに仕上がっている。何と言っても、一回の戦闘で5人以上のユニットと連続して戦う、或いは少ないユニットに数で攻めかかるシチュエーションそのものが新鮮。複数人で戦うのが基本のシミュレーションRPGで、戦闘でも「複数人で戦う」概念(雰囲気)を取り入れてるのが凄く斬新だ。
マップ上で複数人で戦う雰囲気を出すのは、他のシミュレーションRPGでも当たり前のように描かれているものだが、戦闘では表現的に「1対1」で戦う格好になり易く、そこに至っては雰囲気を出せてないものが多かった。マップ上でシームレスに行われるタイプのシミュレーションRPGにしても、全体の雰囲気ではそれを出せても、どうしても絵的には1対1になってしまいがち。細部までそれを描くには厳しいものがあった。更に「2対2」のような互角の戦いを描こうとしても、表現とシステムの都合からどうしても「1対3」のような圧倒的有利・不利の状況しか描けない。もはやこの「1対1」という構図から抜け出せぬのは宿命。どう表現を変えようと、システムを変えようと、構図だけは絶対に直せず終いであった。そんな中、今作が行ったアプローチはまさにその盲点を付いたものである。自分の周りにいるユニットを戦闘に強制参加させるようにすれば、構図は変わらなくても複数人で戦う雰囲気は十分過ぎるほどに出せる。また、ターン制では不可能とされた、「2対2」などの互角の戦いもこのシステムであれば十分に描ける、と。結果としてそんな「周囲を巻き込む」ようにした事で、見た目は「1対1」なのに敵味方共に集団で戦っているという雰囲気を今作では表現する事に成功。シミュレーションRPGの宿命を受け入れつつも、それをシステムで雰囲気もろとも変えてしまうという大胆な試みを実現させてしまったのである。
それ故に今作では、見た目は「1対1」でも複数人が参加するから、敵味方共に1体のユニットだけが戦っている雰囲気が皆無。絵的には制約の都合で1対1になってるとは言え、「巻き込む」をコンセプトに雰囲気で1対1の構図を破壊した事は、シミュレーションRPGの歴史を変える試みだと言える。単に構図を実現させただけで終わらせず、マップデザインの面でも、それを効果的に活かす設計が成されているのもお見事。マップ全体の形から敵の配置具合と、連携して戦う構図を存分に活かせるバランスでまとめられており、システム自体の斬新さを一層際立たせている。ユニオンに限らないが、今作を構成するシステムのほとんどが最初から解放されてる訳でなく、ストーリーを進めるに従って一つずつ解放されていく仕組みになってるのも大変良心的。システムが複雑なので説明書は必読かと思いきや、別に読まずとも普通に入っていける敷居の低さは特筆に値する。また、忘れてしまった場合のマニュアルも収録されているなど、痒い所への配慮も万全。斬新だからこそ、初めての人でも楽しめるような環境を作るという志の高さには、本当に感服するばかりだ。
それでも、システムはかなり入り組んでるので癖は強め。人によって好みはかなり分かれるだろう。ただ、手触りは新しく、あらゆるユーザーが新鮮な手応えを堪能できるのは非常に魅力的。ターン制のシステムで多対多の戦闘を表現した所に関しても、シミュレーションRPG好きならば見逃せない部分であるのは言うまでも無い。
独創的な手応えが堪能できる上、ジャンル的に斬新な試みも盛り沢山。これほどまでに新しい事にチャレンジしたゲームを評価しないのもさすがに難しい。それほどまでに新しい楽しみが沢山詰まった内容に仕上がっているのである。

ただ、斬新なゲームに付き物の欠点としてゲームバランスは難あり。特にユニット周りが極端で、使える者と使えない者の差が激しい。タクティクスカードもスキルの能力差が極端で、これもそう言った差が出てしまうのがやや残念だ。ゲーム全体の難易度はそこそこの手応えで、ゲームオーバー後にリトライする事で難易度が低下するなどの救済処置も盛り込まれていて概ね良好である。ただ、シミュレーションRPGとして詰めの甘い部分がやや多め。正直、やり込み派には結構、致命的と感じてしまうかもしれない。
対し、操作性とインターフェース周りは概ね良好。ボリュームもマップ総数は45以上とやり応え十分。隠し難易度やイベント収集等のやり込みも充実しているので、結構長く遊べる。戦闘を高速化する『バースト』、イベントの早送りなど、ゲームプレイを快適にする機能も充実しており、快適性周りに関してもなかなかのものだ。
グラフィック、音楽の質も高い。特に音楽は戦闘周りの曲が名曲揃い。往年のゲームミュージックを髣髴させる、その場を盛り上げる熱い楽曲の数々には魅了される事間違いなしだ。
演出もオープニングでアニメが流れる他、イベントはフルボイスなど気合いが入っている。ただ、シナリオは平凡。亡国の王女が祖国奪還を目指すというありがちな物語なので魅力に乏しい。しかも、内容はシリアスでありながら、キャラクターは可愛らしいとギャップが激しい。デザイン自体の出来は悪くないものの、できれば世界観に合わせたもう少しハードな作風にして欲しかったところだ。デザイン担当のきゆづき先生には正直、申し訳ないが。

また、二〜三部に分けられた連戦マップが多く、やや冗長気味なのも気になるところ。一応、クリア時間は長くは無い上、中断セーブ機能もあるのでシビアではないが、もう少し単独構成のマップがあっても良かったかもしれない。
意欲作故に荒削りな部分も散見されるが、総合的なシミュレーションRPGとしての完成度は高い。複雑な作りでありながら、導入口はそれほど狭くないのも結構な強みだ。好みが分かれ易い側面もあるが。
ターン制のシミュレーションRPGと基本は正統派ながら、これまでの常識を覆す試みが盛り沢山で、まさに新世代型というに相応しい内容となっているこの『ユグドラ・ユニオン』。 普通のシミュレーションRPGは飽きたという方こそ、是非プレイしてみて頂きたい意欲作だ。羊の皮を被った狼とも言える、この衝撃的な内容は体験する価値アリ。要チェックだ。
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