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  4. ユグドラ・ユニゾン 聖剣武勇伝
≫ユグドラ・ユニゾン 聖剣武勇伝
■販売元 アトラス
■発売・開発元 スティング
■ジャンル リアルタイムシミュレーション
■CERO A(全年齢対象)
■定価 6279円(税込)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 3つ(※フラッシュメモリバックアップ)
■総説明書ページ数 40ページ
■推定クリア時間 6〜8時間(エンディング目的)、60〜80時間(完全攻略目的)
新生ブロンキア帝国の突然の侵略、ファンタジニア王国北部の城塞都市『カローナ』陥落。
その一報はファンタジニアのみならず、大陸全土を震撼させた。
長きに渡る平穏と繁栄の時代が終わりを告げ、徐々に高まっていく戦いの機運。
各勢力は来るべき決戦の時に備え、着々と軍備を整え始める。
世はまさに群雄割拠。
人々は好む好まざるとに関わらず、戦渦に巻き込まれていく。
己が野望を果たすべく、多くの強者達が世界のそこかしこに蠢く炎と鋼の世紀。ある者はその智を、そしてある者は武を以って、その混沌の世界を塗り替えるべく挑んでいくのだった。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆出撃総ユニット数の少なさにマップサイズなど、見た目の分かり易さと取っ付き易さにこだわったゲームルール
◆『ユグドラ・ユニオン』のもしもの物語が展開される、経験者には興味深いシナリオ設定
◆数字を書き込んで連続攻撃を繋げていく、ユニークな作りが異彩を放つ『ユニゾンアタック』
◆最長でも5分以内に決着するコンパクトなボリュームと、お手軽感が印象的なマップ構成
◆詰まり防止策の『イージーリトライ』を始めとする、スティングらしい良心的な救済処置の数々
◆主人公1人当たりは短めだが、コンプリートするとなると数倍の時間を費やす事になる、膨大な総計ボリューム
◆十字キーとタッチペンのみの取っ付き易く、シンプルな操作性
◆基本はゲームボーイアドバンス版『ユグドラ・ユニオン』の流用だが、動きとその質も含め、遜色ないクオリティに仕上がったグラフィック
◆各戦闘を大いに盛り上げる、熱く印象深い楽曲が取り揃った音楽

--- Bad Point ---
◆戦略を練る面白さ、自由度の高さを著しく損ねる、1マップに出撃可能なユニット数の少なさ
◆こちらの出撃制約を完全に無視した敵ユニット総数(不利な戦いを強いられている感が凄い)
◆強弱の差が激し過ぎるユニットバランス(強いユニットは終始エースのまま、弱いユニットは二軍で最終的に解雇の道を辿るなど、味付けがあまりにも極端)
◆勝利条件が敵勢力の拠点制圧のみで、マップ特徴も薄くて単調極まりないレベルデザイン
◆プレイヤーに不利を強いる要素の多さなどから、お世辞にもやり応えがあるとは言い難い難易度設定
◆拠点から動かない為、複数ユニットによるタコ殴りで楽に倒せてしまうボスユニット
◆エフェクトから戦闘画面以降に至るまで異様に鈍く、ストレスが溜まるテンポの悪い演出(早送りしても鈍い)
◆画面切り替えにコマンドの決定など、地味にイライラする鈍さが気持ち悪い操作レスポンス
◆移動する方向を単に選んでいくだけの味気ない作りで、楽しさに欠ける『戦後処理パート』
◆ギャンブル的な要素が強く、物によっては酷いどんでん返しすら発生する、意地悪な『タクティクスカード』とその仕組み
◆設定は魅力的だが、印象的な掛け合いや展開は皆無に等しい、空気同然のストーリー
◆膨大ではあるが、イマイチな部分の多さもあり、やり甲斐は皆無に等しい総計ボリューム
▼Review ≪Last Update : 11/11/2012≫
退かぬなら、集団で叩き潰すまで!

それ以前に、そうなるのが必然であるという。


個性的なゲームシステムと斬新な戦略性で話題を呼んだタクティカルファンタジーRPG『ユグドラ・ユニオン』のスピンオフ作品。元々、携帯電話のアプリ用タイトルとしてリリースされたものをDS向けに作り直した、移植作品でもある。

独創的ながらも、細かい部分の詰めの甘さが残念でならない凡作だ。

ゲーム内容は『ユグドラ・ユニオン』のシミュレーションRPGとは大きく異なる、リアルタイムストラテジー。全10以上の勢力の内の一つとなり、ファンタジニア大陸全土の統一を目指す、いわゆる国取りシミュレーションゲームである。
基本的には自らの勢力に所属するユニット達に移動を始めとする指示を飛ばし、こちら側に攻めてくる敵ユニット達に戦闘を仕掛け、彼らの攻撃拠点制圧を狙っていくのが大まかな内容。拠点制圧に成功するとマップクリアとなり、そこがプレイヤーの領土となる。そして、他の制圧してない勢力のマップに進軍し、再び拠点制圧を目指して戦闘を繰り広げていくと言った具合だ。本編はこれらを繰り返す形で展開。基本は一部、移動選択ありの一本道のステージクリア方式(キャンペーン方式)で、最終的に舞台となるファンタジア大陸の全勢力が支配する領土の制圧を達成すればゲームクリアとなる。選べる勢力は冒頭に解説した通り、全10以上。その内の一つを選択し、以降はその勢力の主人公になり、自らに集う部下達と共に他勢力が支配する領土の制圧を進めていく。
他勢力制圧に伴って発生する戦闘は、『戦闘準備』、『戦闘』、『戦後処理』の3つのパートを介しながら展開。『戦闘準備』は文字通り、出撃メンバーの選択等を行うパートだが、最大の特徴は戦況報告の確認。ここで自軍所属の密偵から、大陸内で起きている他勢力の争いなどの情報が提供される。報告内容は様々。勢力同士の戦いが発生し、その結果、勝利した勢力が領土を拡大したり、地震や疫病の発生で一部勢力の守備能力や兵力が低下するなど、プレイヤー側にとって不利な展開や有利な展開が起きたりする。例によって、発生はランダムな為、有利な展開が起こればラッキーだが、不利な展開が起きると難易度が上がる事も。さすがにクリア不可能になるほど事態は起きたりしないが、そうも予定通りには行かせない仕掛けが設けられているのもあり、どのマップも油断が許されない構成になっている。
また、『ユグドラ・ユニオン』にも登場した『タクティクスカード』も厄介な存在。今作では戦闘時にこれを使う事で、自軍に攻撃力上昇などの特殊効果を与えられるのだが、1枚しか選択できない上、使ったらそれまでという仕様になっている。具体的には準備にて36枚の内から1枚だけを選ぶのだが、選んだその1枚は次のマップでは使用不可となり、破棄されてしまうのである。更に今回はカードに『鑑定』の概念があり、鑑定済みのものは選択時に詳細が公にされている一方、未鑑定のものは詳細が伏せられている。つまり、鑑定済みのものが一つもない状況下では、ランダムでカードが決定される事になってしまうのだ。無論、その時に選んだカードが自軍に不利なものになる事故も普通に起こり得る。まさに勝負は時の運という格言を体現したかのような仕組み。戦況報告と同様、予定調和をもたらさぬシステムに完成されている。
肝心の『戦闘』も基本的にタッチペンでマップ上のユニットを選び、移動指示を飛ばながら戦うシンプル設計ながら、その中身は非常に独特。敵ユニットとの戦闘(デュエル)が武器の『相性』に左右されるものだったり、『ユニゾン・アタック』なる特殊な追加攻撃技があったりと、他に類を見ない要素が詰め込まれている。
注目は『ユニゾン・アタック』。先の敵ユニットとのデュエルでは、その発生と同時に味方ユニットに『ユニゾンナンバー』なる数値が表記される。この数値を敵への攻撃成功時に発生する『インパクトサークル』内にタッチペンで最小値から順に書き込むと、『ユニゾン・アタック』なる追加攻撃が発生。連続して書き込んでいけば、デュエルを仕掛けたユニットに大ダメージを与えられるのである。但し、連続攻撃を発生させるには数値を順に書き込むというのがミソで、仮に間違えた場合には追加攻撃が止まる仕組みになっている。更に数値は一瞬しか表示されない。つまり、デュエル発生時に表示された数字をプレイヤーは瞬時に覚え、記憶を頼りにサークル内に書いていかなければならないのだ。さながら、知育ゲームかと錯覚するかのような作りとなっている。また、追加攻撃を与える度に敵ユニットが後方に跳ね返り、サークルの範囲はズレていくので、ユニットの配置もずれに対処できるよう、考慮していく必要もある。基本は直感的に遊べる簡単設計ではあるのだが、これらの仕様の存在もあり、奇妙で新鮮な体験を堪能することができる。まさに二重の意味での思考型RTSと言ったところ。独創的にも程がある作りになっているのである。そもそも、RTSで記憶力が試されてくるのがあまりにも斬新。順番に数値を書き込んで行く遊びには、DSユーザーなら思わず、かの『脳を鍛える大人のDSトレーニング』が脳裏を過ぎるかもしれない。この他にも、『戦後処理』における捕虜のスカウト、戦力外通告、占領した領土の探索と言った特徴的な要素があり、新鮮な体験をプレイヤーに提供してくれる。
原作に当たる『ユグドラ・ユニオン』とは別のゲームであり、内容的にもどちらかというとこちらの方が単純ではある。しかし、戦況による状況変化、『ユニゾン・アタック』など、さすがは『ユグドラ・ユニオン』のスピンオフだと納得させられる、特徴的なシステムが満載。RTSとしても、まるで知育ゲームのような所があるなど、斬新な一面を覗かせている個性の強い部分もある。手軽に遊べるが、中身は他のRTSとは一線を画す出来。如何にもユグドラの関連作、そしてスティング制作だと実感させられる、非常に癖の強いゲームに仕上げられている。

そんな独特のゲームシステムが今作の売り…なのだが、正直な所、今作のゲームとしての出来はイマイチだ。というのも、この手のストラテジーゲームの命とも言うべき要素、戦略性と自由度が非常に乏しい。システムこそ考えて作られているものの、ゲームデザインとレベルデザインの部分の詰めが甘過ぎるのだ。
ゲームデザインに関して言えば、異様な制約がゲーム性を台無しにしてしまっている。特に酷いのが出撃枠で、何と主人公を含めて最大5人までしか戦闘に参加させる事ができない。敵側は5人以上も登場するのにも関わらずだ。しかも、敵側は増援部隊も頻繁に出してくるのだが、こちら側はそう言った部隊を出撃させる事もできず。やられたユニットの分を補う為、待機に回したユニットを出撃させて戦況を維持する戦術が取れないのである。この為、少しでも戦力が減ると一気に戦況は不利になる。逆に言えば、慎重な立ち回りが要求されるので緊張感のある戦闘を楽しめるという良さがあるのだが、物量面で圧倒的に不利な状況下で戦う為、正直言って、戦っていて面白くない。また、5人しか出せない制約がありながら、マップをクリアする度に次々と新しい仲間が増えていくのも地味に嫌らしく、あっという間に雇用可能なユニットの総数を超えて戦力外通告を度々強いられるハメになるのももどかしい。それでいて、ユニットの能力バランスも極端。強いキャラと弱いキャラがはっきりしている為、結果的にメンバーが固定化してしまう。新たに追加される仲間も、優秀なユニットが居れば用なしとなるので、戦略を練る面白さなど何もないという始末だ。ここまで人数を絞ったのは、原作のアプリ版に倣ったのかもしれないが、それにしても調整が不十分過ぎる。ユニットの能力にしても、今作にはレベルアップの概念がない為、使える者と使えない者との差が激し過ぎるので、どんな困難なマップも優秀なユニットが居れば大丈夫、逆に言うと、優秀なユニットが居ないと詰みかねないと言うのはあまりにお粗末な調整だ。戦略性とそれによる自由度の高さが命とも言えるゲームで、ここまで制約と露骨な差別化を行うとは、真面目に作ろうとしようとする気がなかったと疑われても仕方がない。それほどまでにまとめ方が雑。ジャンル特有の面白さに欠けるのである。
レベルデザインも酷い。基本的に本編は敵勢力の拠点を制圧する戦闘だけで、国取りをテーマとしたゲームでありながら、他の勢力の侵略から領地を守るという防衛戦がない。最後の最後まで、同じ戦闘が繰り返される非常に単調で面白味のない構成になってしまっている。それでいて、戦闘マップの作りも単調。一応、敵の配置、特殊な兵器などで違いを出してはいるが、地形がただ広いだけなので、見た目の華やかさに欠ける。また、これは最後を含めた全マップに共通している事だが、敵の進撃部隊は積極的に突撃してくるのに対し、ボスユニットは拠点から一歩も動かないというのも悪い意味で驚愕である。この為、どのマップも基本的に攻めてくる進撃部隊を一掃した後、ボスを袋叩きにするという攻略でパターン化する始末。せめて一人ぐらい、動くボスが居ても良いだろうに、それすら一体も出さないというだけでも、先のゲームデザインと同様、真面目にストラテジーゲームを作ろうとしなかったのが如実に現れている。何故、そこを真面目に作ろうとしなかったのか。原作に当たる『ユグドラ・ユニオン』の多彩なマップ構成を知っている人間からすると、今作の雑さは信じられないの一言に尽きるばかりである。
その他、戦後処理に挿入される探索も方向をただ選択していくだけのつまらないミニゲームになっていたり、ストーリー性もそれほど強くない為、全員のシナリオをプレイしたくなる意欲が湧き難い作りになっているなどと散々。ユニゾンアタックなど、DSのタッチパネル&タッチペン操作を面白い形で活かしたシステムは新鮮な手応えがあって面白いのだが、肝心のゲーム全体を構成する要素全てがあまりに練り込み不足で、純粋に面白くないゲームになってしまっている。
元が携帯電話向けのアプリだから、単調なのは仕方がないとは言え、パッケージで出すなら出すなりにより派手し、別物レベルのものに仕上げるとか、何故、そういう考えに至れなかったのか。ジャンル的に比較対象として場違いだが、『テレジア』の例から考えると、今作の作りは正直、手抜きレベルと言っても致し方がないほどだ。それほどまでに今作の出来はイマイチ。輝きそうな要素がありながら、その全てが宝の持ち腐れとなってしまっているのである。

また、ゲームテンポ周りも酷く、全ての動きが鈍い。一応、戦闘マップの進行を早くする早送り機能はあるのだが、これでも遅いどころか、肝心の戦闘には非対応。更にタクティクスカードが発動した時も長い演出が挿入されるどころか、カットできないなど、痒い所に全く手が届いていない。PSP版『ユグドラ・ユニオン』、『ナイツ・イン・ザナイトメア』など、近年のスティング作品はテンポに凄く気を使うようになったというのに、それに逆行するとは一体どうしたのか。また、操作性もタッチペン操作がメインなのでお手軽と言えばお手軽なのだが、レスポンスが非常に鈍く、快適とは到底言い難い。これにしても、最近の作品では随分気を使っていたというのに「どうして?」としか言い様がない。
全体的なゲームバランスも、ユニットの格差などお世辞にも絶妙とは言い難い。但し、救済処置の豊富さは素晴らしく、詰まり防止策としての『イージーリトライ』など、スティングらしい気配りが凝らされているのは素直に評価に値する部分だ。
グラフィックも基本はゲームボーイアドバンス版『ユグドラ・ユニオン』の流用だが、一部は新規グラフィックになっているほか、元の質が高いのもあって出来は良好。音楽もこれこそゲームミュージックと断言できる、印象的且つ熱い曲が揃っており、戦闘を大いに盛り上げてくれる。特にエスメラルダ、テンプルナイツの戦闘テーマ二曲は要チェックだ。

ボリュームもエンディングまでは大体6〜7時間程度だが、全ての主人公のシナリオの攻略を目指すとなると、その数倍以上の時間がかかるなど、かなり充実している。しかし、レベルデザインの甘さとストーリー性の弱さもあり、やり込み甲斐があるというと正直な所、否である。
演出全般もボス戦では特別なカットインが入ったり、曲が変わったりなど、抑える所は抑えているが、先の通り、タクティクスカードなどのテンポの悪いエフェクトが多く、総合的な出来はお世辞にも良いとは言えない感じだ。
『ユグドラ・ユニオン』のIFを体現したシナリオ設定、『ユニゾンアタック』によるユニークな攻撃システム、手頃なボリュームなど、良い所もそれなりにあるし、スティングらしい発想の面白さが炸裂した作りにはなっている。しかし、細かい調整とレベルデザインの詰めの甘さにより、凡作レベルの出来に落ち着いてしまっているのは何とももどかしい限りだ。詰めの甘い部分を丁寧に作り込めば傑作になり得る可能性もあっただろうに、結果的に原作に当たる携帯電話のアプリ版を雑に移植した格好になってしまっている今作。正直な所、ユグドラファン以外には間違ってもお薦めできない作品だ。単体のストラテジーゲームとしても非常に作りが甘いので、その手のゲームが好きな方にもお薦めできない。これをやるぐらいなら、ストーリー上の原作に当たる『ユグドラ・ユニオン』をどうぞ。
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