Written in Japanese. Japanese fonts required to view this site / Game Review & Data Base Site
  1. ホーム>
  2. Review Box>
  3. Nintendo Switch>
  4. パラノマサイト FILE23 本所七不思議
≫パラノマサイト FILE23 本所七不思議


■発売元:スクウェア・エニックス / ■開発:ジーン / ■ジャンル:ホラーミステリーアドベンチャー /
■CERO:D(17歳以上対象) ※過度の暴力、犯罪描写あり / ■定価:1,980円(税込)

◆公式サイト / ストアページ
≫『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』(スクウェア・エニックス公式サイト)
≫パラノマサイト FILE23 本所七不思議(My Nintendo Store)

©2023 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
▼Information
■プレイ人数:1人 / ■セーブデータ数:4つ / ■必要容量:681.0MB /
■プレイモード:TVモード、テーブルモード、携帯モード / ■推定クリア時間:10~12時間


石鹸会社に勤めるごく普通の会社員「興家彰吾(おきいえ しょうご)」は、友人の「福永葉子(ふくなが ようこ)」と共に東京都墨田区の錦糸堀公園で深夜、地元では有名な怪談である「本所七不思議(ほんじょななふしぎ)」について調べていた。

この七不思議は。「蘇りの秘術」なるものと関係があるという葉子の話を半信半疑で聞き流していた興家。
だが、目の前で次々と奇妙なことが起こり始める。

時を同じくして、彼らとは別に「本所七不思議」を追う人々がいた。
連続変死事件を追うベテラン警部、クラスメイトの自殺事件の真相を探る女子高生、そして失った息子の復讐を誓う母親。それぞれの思惑は「本所七不思議」を中心に絡み合い、物語は凄惨な呪い合いへと発展していくのである。
▼Pros cons Pick up
--- Good Point ---
◆ホラーと思わせて、実はミステリーであるギャップと息つく暇を与えない構成が見事なストーリー
◆伝統的なコマンド選択型ながら、360度操作可能なカメラを活かした仕掛けを凝らしたゲームデザイン
◆所々に仕込まれた”ゲームならでは”の仕掛けの数々(思いもしない機能を使って対処する場面も……?)
◆情報量の多さと充実したテキストで、読み物としても面白く仕上げられた「TIPS」
◆メインからサブに至るまで強烈な個性が表現され、強く印象に残る登場人物たち
◆イケメンから渋いおじさん、陰のあるマダムまで個々の魅力が丁寧に表された登場人物たちのデザイン
◆長すぎず短すぎずの丁度良さと、キレとユーモアのある台詞回しが光るテキスト周り
◆発動条件を相手に踏ませたり、逆にそれを防ぐ手を講じるといった駆け引きが面白い「呪殺」
◆一枚絵(スチル)を用いず、立ち絵とカメラ、音響効果を巧みに活用して臨場感を表した巧な演出
◆じっくり進めて10時間ほどながら、エピソードごとの密度の濃さから物足りなさは皆無のボリューム
◆「TIPS」の全解禁、「なめどり」収集など程よく盛り込まれた寄り道(やり込み)要素
◆各種イベントの臨場感とホラーならではの”ドキッと感”を引き立てる音響全般

--- Bad Point ---
◆既読スキップ機能非搭載など、一部前時代的な部分が見られるオプション周り
◆PC、スマホを前提に作ったためか、若干のぎこちなさが残るコントローラによる操作周り
◆複数作れるのに、2周目を遊ぶには全データを削除しなければならない困ったセーブスロットの仕様(これにはストーリー的な意味も込められていたりするのだが、もう少し妥協して欲しかったところも……)
◆中盤以降に発生する謎解きイベントの分かりにくさ(ヒントが不足気味)
◆一部、ボカされた描写の存在(詳しくは言えないが、真相周りがやや端折り気味)
▼Game Overview
きこえるか、呪主(かしりぬし)よ―
蘇りの秘術を求めし呪主よ―


呪い殺せ



◇『スクールガールストライカーズ』、『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズを代表作とする石山貴也氏が監督・脚本を手がけた新作ホラーアドベンチャーゲーム。東京都墨田区を舞台に、実在する怪談「本所七不思議(ほんじょななふしぎ)」にまつわる事件を複数の登場人物の視点から追っていく。登場人物のデザインは『すばらしきこのせかい』などを代表作とする小林元氏。ゲーム部分の開発は『けいおん! 放課後ライブ!!』(PSP)、『リズム怪盗R〜皇帝ナポレオンの遺産〜』(3DS)、『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』(NS/PS4/PC)などに携わった株式会社ジーンが担当している。

◇システム周りは伝統的なコマンド選択型アドベンチャーゲームを踏襲。コマンドを選択し、登場人物と会話を重ねながらストーリーを進めていく。会話以外にも、現在いる場所の周囲に怪しいものがないかを調べるポイント&クリック式の探索要素もある。また、会話および調査の場面では360度、自由にカメラを動かせる。コントローラの時は右スティックを使用。また、携帯モードプレイ時に限り、タッチスクリーンによるスライドでもカメラは動かせる。(Nintendo Switch版はこの双方に対応している)

◇作中で「本所七不思議」は「呪い」とされていて、それを感じ取った人物は「呪主(かしりぬし)」になって他の人物を呪殺できるようになる。対象を呪殺するためには、それぞれの呪い固有の条件を相手に踏ませる必要がある。条件はどの呪いを受けたかによって変化。なので、呪殺を図るに当たっては会話中、いかにして相手に条件を踏ませるかのやり取りを重ねる必要がある。上手く条件を踏ませれば、画面左上に特殊なアイコンが表示。対応するボタンを押す、あるいはアイコンを直接タッチすれば呪いが発動する。当然ながら、呪いが発動すれば条件を踏んだ人物は漏れなくあの世行き。

◇ゲーム序盤は石鹸会社に勤務する青年「興家彰吾」のエピソードから始まる。ある程度、彼のエピソードを進めていくと他の「呪主」のエピソードが解禁され、それぞれの視点から見たストーリーが楽しめるようになる。

◇登場人物、専門用語、墨田区内の特定の場所を訪れたり、特定の場所を調べることによって「TIPS」が更新されていくシステムを実装。それぞれの情報や意味を詳しく見ることができる。「TIPS」の内容はストーリーの進展と同時に更新もされることもあり、最初はほんの一行程度しかなかった簡素な内容が、突如として複数行に渡る長文へと変化したりもする。それと同時に新たな情報も得られ、後のストーリーを進めるに当たっての突破口になったりすることも。
▼Review ≪Latest Update :4/16/2023 | First Publication Date:4/16/2023≫
ホラーアドベンチャーと称しているが、正確にはホラーミステリーアドベンチャー。とりわけ序盤と中盤以降でまったくノリが変わる。そのギャップの大きさと、息つく暇を与えないストーリー展開で、プレイヤーを終始虜にさせる傑作に完成されている。
駆け引きの末、呪いによって得た力を用いて相手を殺す。
その概略からは、怪異バトルな内容を想像しやすい。特に序盤の興家彰吾のエピソードはその傾向があり、突如起きた”とんでもない事態”を解決するため、禁忌に手を染めていく様子が描かれる。だが、それをある程度まで乗り越えると一転。ミステリーアドベンチャーとしての真の姿を現し、プレイヤーを作中の世界へと引き込んでいく。

この一連の流れとそこからのストーリー展開がもの凄くよく出来ている。
少しでも詳細に言及するとネタバレになることから伏せるが、確かにこれはミステリーアドベンチャーだと思わず納得させられるイベントが相次いで起きる。特に「呪主」のひとりで、警察関係者でもある「津詰徹生(つつみ てつお)」の視点から語られるエピソードには、その事実を殊更強く実感させられると思う。そもそも、他にも登場人物の中にプロフェッショナルな探偵(略して「プロタン」)がいるのも、ミステリーであることを物語っているが。このキャラクターが登場するエピソードにも、ミステリーであることを存分に実感させられる展開が設けられている。そこに「本所七不思議」という怪談がどのようにして関わり、事態をかき乱していくのか……それは「見てのお楽しみ」としか言えず。

とにかく、ホラー作品だと思い込んで始めたプレイヤーをもの凄くいい意味で裏切るストーリーになっている。本作が初お披露目された時に件の呪殺がクローズアップされていたことから、いわゆるデスゲーム的な血なまぐさい内容を想像すると思う。実際に序盤はそんな感じ。ところが、最後までプレイしてみるとその印象は180度覆される。もちろん、ホラー作品らしく所々でドキッとさせてきたり、陰惨なエピソードが語られたり、おぞましいカットが挿入される要素もある。しかし、本作においてはあくまでもストーリー全体に色どりを与える添え物。メインはミステリーだ。
そんな訳で、本作をバリバリのホラー作品だと思っている人はプレイ資格大ありである。ぜひとも騙されたと思ってプレイしてみていただきたい。「ホラー苦手なんですけど」という言い訳は通用しない。すぐにやれ(強制)。さすれば、ここまで書いてきたミステリーがメインである意味、そしてストーリーの出来の良さをそれはもう存分に思い知らされるはずだ。

ストーリーに関しては全体の構成と内容に限らず、登場人物たちの描写もひときわ光るものになっている。誰も彼も強烈な個性が表現されていて、印象に残りやすい。そして、思わず愛着を抱いてしまう。



特に前述にて言及した「呪主」のひとり、津詰はその象徴。見た目はいかにもベテラン警部というコワモテなのだが、その実は作中随一のツッコミ役にして萌えキャラ。行動を共にする若手刑事の「襟尾純(えりお じゅん)」の発言に戸惑ったり、時に見た目とは180度異なる振る舞いを見せるなりして、どんどん可愛いおじさんとのイメージが上書きされていくのだ。「ちょっと何言っているのかわからない」となるかもしれないが、本当にそうなのだから仕方がない。気になるのなら、実際に彼のエピソードを辿ってみれば分かる。きっと「なんて可愛いおじさんなんだ」となってしまうはずである。保証する。

「呪主」以外の登場人物たちにも、同じくらい強烈な印象を残すメンツが揃っている。中でも立ち位置的にも面白いのが、女子高生で霊感少女の「黒鈴ミヲ」だ。彼女は「呪主」のひとり、「坂崎約子(さかざき やっこ)」のエピソードで登場するのだが、一見大人しそうな見た目とは裏腹の活躍を見せてくれる。また、他の登場人物とも意外な絡みを見せ、ストーリーを盛り上げていくのである。先ほどの津詰が可愛いおじさんなら、彼女はカッコイイ女の子か。とは言え、ちょっと抜けている所や「おいおい」な一面もあって、単純にそうとは言い切れなかったりするが。ただ、津詰同様にきっと嫌でも印象に残ってしまうはずである。個人的にこの津詰とミヲの活躍を見るだけでも本作をプレイする価値はあると言ってもいいぐらい。
もちろん、この2人以外の登場人物たち(特に前述のプロタンと襟尾)も大変強烈な個性付けが図られているので必見だ。

この一連のストーリー展開、人物描写の魅力を引き立てる小気味よいセリフ回しも秀逸。同様の特徴は脚本を担当した石山氏の過去作『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズでもあったが、完全新作たる本作でもそのセンスが発揮されている。「TIPS」に記録されていく各種情報のテキストもバリエーションが膨大に加え、読み応えも申し分ない。

そして、演出面の工夫も見事。特に凄いのが1枚絵(スチル)を一切使わず、背景と登場人物たちの立ち絵パターンだけでイベントの躍動感や緊迫感を表現していることである。場面に応じて寄せたり、カメラを動かすなりして、最小限の要素しか用いていない事実を絶妙に覆い隠しているのだ。そこに派手な音を鳴らす、特殊なジングルを流すといった音響効果も重ね、プレイヤーの心情を揺さぶってくる。これはまさにアイディアとセンスの勝利だ。
何より、制約を課して違和感を感じさせないように作り上げている所には熟練の技を感じさせられる。ボイスにムービーなど、豪華な演出が当たり前のようになった時代、逆に限られた手法を用いて臨場感のある場面を作り出すことに挑んだ姿勢には感服するしかない。本当に実態を感じさせないほど上手くまとまっているので、要注目である。

他にも作中にはゲーム全体を構成する要素や機能の活用を促すイベントも随所に設けられている。具体的にどんなものかは伏せるが、体験すればきっと、本作のストーリーに対して”ゲームならではのストーリー”との確固たる印象を持つだろう こんな具合に本作のストーリーはその内容と構成に留まらず、周りを固める要素も含め、頭ひとつ抜けた完成度を誇る。プレイヤーを終始虜にするというのは伊達ではない。そして、ホラーとしてのおぞましさを期待するほどに良い方向に裏切られる。そんな素敵で刺激的なストーリーを体験できる作品に完成されているのだ。
ボリュームも丁度よい規模。エンディングまでは大体10時間。20~30時間を要するアドベンチャーゲームなどと比べれば小さめではある。だが、相応に個々のエピソードが情報量盛りだくさんなのと、短めなりのテンポの良さもあって退屈することがない。また、一部のエピソードとエリアに隠された「なめどり」なるシール、「TIPS」の情報をコンプリートするというやり込み要素も用意されている。そちらも含めれば、大体15時間ぐらいは遊べるので、物足りなさはほとんど感じさせないはずだ。

映像・音響面も素晴らしく、特に登場人物のデザインはさすが『すばらしきこのせかい』の小林氏と唸る出来。快適性の面でもロードでもたつくなんてことは一切ない。また、会話時のコマンドでも大体、聞き出せる情報が出尽くした際にはチェックマークが入るようになっているので、総当たりで時間を浪費するようなことも滅多に起きない。

ただ、PC、スマートフォン(タブレット)を前提に設計されているためか、コントローラ(ゲームパッド)での操作は若干もたつく。イライラするほどではないのが救いだが、スティック操作だとカーソル(ポインター)が画面上に残り続けてしまうのは、人によっては気になるかもしれない(一応、方向キーを押せば消える)。
また、本作は昨今のアドベンチャーゲームなどでお馴染みの既読スキップ機能がない。本編には読了済みのエピソードに戻る展開もあるのだが、そのたびにボタンを連打する必要があるのは単純に前時代的。そんなにテキスト量が長くないだけ幸いだが、これは最低限備えて良かったように思う。
それ以外ではセーブを複数作れるのに、2周目以降を遊びたい場合は全データの削除が必須になること、中盤以降に発生する謎解きイベント。前者はストーリーの事情もあるのだが、ちょっと仕様的に理不尽。後者も際どい所だが、もう少しヒントを入れたり、或いは一定時間経過後に登場人物のひとり、「案内人」によるガイドが入る要素があっても良かったかもしれない。

そんな一部、行き届いてない部分もあるのだが、アドベンチャーゲームとしての出来は盤石で、素直に傑作と言える内容である。ホラーを称すなりにドキッとさせられる要素もあるのだが、それを乗り越えるだけの大きな価値を持った作品である。ホラー嫌いも勇気をもってプレイいただきたい。アドベンチャーゲーム、ビジュアルノベル好きのプレイは義務だ。 2023年早々、まさに綺羅星のごとく現れた会心の1本。声を大にしておすすめします。
≫トップに戻る≪